割り箸を二膳もらった夜
深雪はレジ袋を開けて、割り箸が二膳入っていることに気づいた。
焼きそばと餃子、わかめスープ。量が多かったから、店員が二人分だと思ったのかもしれない。深雪は一膳を引き出しにしまい、もう一膳の袋を破った。
午後九時半。部屋にはテレビの音もなく、冷蔵庫の低い唸りだけが響いている。半年前まで、同じテーブルの向かいに人がいた。別れた理由は、どちらかが悪いというより、二人でいるのに互いを待たせ続けたからだった。
もう立ち直ったと思っていた。友人にもそう言っていた。けれど割り箸が二膳あるだけで、空いている椅子が急に目に入る。
焼きそばは温めすぎて、容器の端が少し歪んでいた。深雪は餃子のたれを開け、半分こぼした。拭くものを探しているうちに、会社のチャットが鳴る。「明日の資料、念のため確認お願いします」。勤務時間外です、と言えるほど強くなく、すぐ開くほど素直でもない。通知だけを消した。
引き出しにしまった割り箸を取り出し、深雪は眺めた。来客用に取っておくほど、家に人は来ない。だからといって捨てるのも、何かを認めるようで嫌だった。
結局、その二膳目で餃子を一つずつ別の皿へ移した。明日の朝食にするつもりだったが、皿に三個、容器に三個と分けると、今日の自分と明日の自分が向かい合っているように見えた。
「そっちも大変だね」
小さく言って、自分で可笑しくなる。
空いている椅子は空いたままだ。寂しさが消えたわけでもない。けれど、一人分と決めつけなくてもいいと思った。今の自分と、朝の自分。二膳の箸を使う相手は、それで足りる。
深雪は容器の餃子を全部食べ、皿の三個にはラップをかけた。仕事の資料は開かなかった。
今夜は食べすぎてもいい。明日の自分には、わかめスープを残しておけばいい。
ラップをかけた皿に、深雪は油性ペンで日付を書かなかった。明日の朝、食べたくなければ食べなくていい。予定どおりに消費することより、残しておけるものがあることのほうが、今夜は少し心強かった。