動いたのは所有者

鶴来伊織はカードに触れず、椅子ごと唐木田奏と場所を入れ替えた。

床のレールが鳴り、二つの座席が交差する。拘束鎖も座席と一緒に滑り、参加者番号の表示だけが新しい位置へ更新された。伊織の前には星、奏の前には髑髏が来た。高階詩乃は中央席で鍵のカードを見つめている。

三枚は卓へ鎖で固定され、外せない。壁にはこうあった。

〈制限時間内に隣の参加者とカードを交換する。終了時、星を所有する者を解放する〉

「カードが動いてない」と奏が叫ぶ。

伊織は座席の背に刻まれた説明を示した。

〈各席正面のカードを、その席の参加者の所有物とする〉

カードは鎖で固定されている。主催者は、参加者が鎖の長さを利用して左右のカードを引き寄せ、手渡しすると思っていた。だが鎖は短く、交換中に互いの首輪を近づけなければならない。恐怖から争いが起きる仕掛けだった。

伊織は床の座席固定レバーが解除できることに気づいた。カードを移さず、所有者の側を動かした。

『座席移動はカード交換ではありません』

「交換前、星は奏の所有。交換後、私の所有。髑髏は私から奏へ移った。所有物としてのカードは交換されている」

詩乃が自分の椅子を動かそうとしたが、中央席のレールは左右どちらか一方にしか接続できない。残り二分で、彼女は奏に取引を持ちかけた。

「私と席を替えれば、鍵をあげる」

奏は髑髏から逃れようと頷く。しかし伊織との交換を一度記録した奏の座席はロックされていた。二回目は動かない。

終了ベル。

所有判定は座席番号と参加者の生体認証を照合する。星の正面に座る伊織の名が緑に光った。

〈勝者、鶴来伊織〉

主催者は「物理的なカード移動」を主張したが、規則で選んだ動詞は「所有する」だった。

伊織は開いた扉で振り返る。

「交換は、物が動くことじゃない。誰のものかが入れ替わることでも成立する。カードを鎖で縛ったせいで、それがよく見えた」

卓上の星は一ミリも動かず、所有者だけを出口へ送った。