十一分遅れのバス

早瀬都和の路線バスは、病院前の停留所へ十一分遅れて着いた。

雨の歩道で、車椅子の女性が待っている。乗降用の板を出せば、さらに三分はかかる。無線から営業所の指示が飛んだ。

「後続へ案内して。駅前の接続をこれ以上遅らせられない」

後続は四十分後だった。女性は膝に診察券を置き、乗り換え先の時刻表を濡れないよう胸へ抱えている。車内では乗客が時計を見ていた。

都和はハザードを点け、運転席を立った。

「お待たせしました。今、板を出します」

無線がもう一度鳴ったが、返事は乗車を終えてからにした。後輩の研修運転士が板を持とうとしたので、都和は車体との隙間を指した。

「先にブレーキ表示。次に傾斜。急ぐときほど順番は変えない」

女性を固定席へ案内し、乗り換え駅へ到着予定を連絡した。駅側がホームまでの介助を準備し、接続列車は二分待つことになった。車内にはため息もあったが、「病院帰りなら仕方ないよ」と席を詰める声もあった。

女性は降車前、「遅らせてすみません」と頭を下げた。都和は、謝る相手は乗せてもらう人ではなく、乗せる時間を最初から書かなかった側だと思った。車椅子を固定した位置から降車ボタンへ手が届きにくいことにも気づき、後輩へ停車前に必ず声をかけるよう頼んだ。

終点で営業所長は、遅延報告書を差し出した。

「理由は渋滞でいい。車椅子対応と書くと、次から時間を読めと言われる」

都和は運行記録を開いた。同じ停留所では、この一か月に乗降介助が七件あり、平均三分四十秒かかっている。ところがダイヤ上の停車時間は二十秒のままだった。遅れは今日の一人が作ったのではなく、最初から表の中に隠されていた。

彼女は〈渋滞〉を消し、〈乗降時間がダイヤへ未反映〉と入力した。七件の記録も添付し、後輩へ「人を置いていくことで定時にしない」とだけ伝えた。

勤務終了後、次期ダイヤ検討会の参加者募集を開いた。

都和は運転士枠の一人目として、参加を登録した。雨で濡れた時刻表を、資料として机に置いた。