十三番ロッカーの前

町田友梨が終電後の連絡通路を歩いていると、十三番ロッカーから金属音がした。若い女性が、硬貨の投入口へヘアピンを差し込もうとしている。

「壊したら余計に開かなくなりますよ」

「中にパスポートがあるんです」

財布ごと鍵をなくし、翌朝の便で国外へ出る。ロッカーにはパスポート、航空券の控え、処方薬が入っているという。女性は駅員に相談したが、身分証が中では本人確認ができないと断られたらしい。

友梨は規則を守る側だ。小さな会社で総務をしていて、例外を認めた結果の後始末を何度もしてきた。女性は、規則は困っていない人が作るものだと言った。

「だからって、ヘアピンは本人確認になりません」

「朝まで閉まったままよりはましです」

言い争っているうちに、巡回の駅員が来た。友梨は女性から予約メールとロッカー決済の履歴を見せてもらい、中身を一つずつ先に申告させた。紺のパスポートケース、白い薬袋、緑のファイル、片方だけの手袋。

「防犯カメラの前で開けて、申告どおりか確認してください。私は第三者として残ります」

女性は友梨をにらんだ。

「知らない人に中身を見られるんですか」

「壊して警察に説明するより、見られる人を選べます」

女性はしばらく黙り、ヘアピンを髪へ戻した。駅員が用意した確認書に、女性が名前を書き、友梨が立会人の欄へ署名する。

開錠前に、駅員は防犯カメラの向きを確認した。女性は処方薬の名前まで読み上げることを嫌がり、友梨もそこまでは不要だと止めた。規則を守ることと、必要以上に私生活を差し出すことは同じではない。申告は容器の色と個数までにし、パスポート番号は開いたあと本人だけが照合することにした。

女性は「規則の人なのに、そこは止めるんですね」と言った。友梨は、規則の人だから止めるのだとは説明しなかった。

二人は規則を信じたわけではない。女性は飛行機に乗るため、友梨は鍵を壊させないために、同じ紙へペンを置いた。

非常用の鍵が回る。

十三番の扉が開くまで、どちらもその場を離れなかった。