十個入りの春
百貨店の菓子売場で、白鷺壮真は春限定の最中を並べた。
買付担当の目は商品より見積書に向いていた。
「競合は上代を同じにして、掛率を二ポイント下げるそうです。合わせられますか」
壮真の会社には値下げ余地がほとんどない。小さな老舗で、皮も餡も手作業だった。断れば、五十店舗への導入が消える。
彼は返事をせず、売場に置かれた見本の箱を開けた。十二個入り。棚の奥行きに対して箱が二センチ長く、前面をそろえると背後の扉に当たる。担当者は斜めに置いていた。
「このまま全店へ入れると、補充のたびに箱を持ち上げますね」
担当者は「売場で何とかする」と言ったが、壮真はバックヤードも見せてもらった。平台の下には、昨年の別メーカーの季節商品が残っていた。大箱で展開し、売れ残ったものだった。
春限定品は四月二週目を過ぎると急に動きが鈍る。五十店舗に最低ロットを一度に入れれば、初日の売上は作れても、最終週に値引き札が並ぶ。
壮真は十二個入りを十個入りに変更すると電話で工場へ伝えた。箱を二センチ短くし、上代は据え置く。見た目の量は減るが、一個ずつの間隔を広げ、桜形の仕切りを見せる。さらに初回納品を三十店舗に絞り、三日後の販売数を見て残り二十店舗へ送る案にした。
「箱を作り直す費用は?」
「こちらで持ちます。掛率は下げません」
担当者は眉を上げた。
「こちらの取り分は増えない」
「廃棄と値引きが減れば、残る額は増えます」
売場主任が実際に十個分の紙片を並べると、箱は扉に当たらず二段積みにできた。包装担当は、十二個用の箱を切り詰めるのではなく、仕切りを共用できる寸法をその場で計算した。急いで専用品を増やせば、今度は資材だけが余るからだ。補充回数も減る。
担当者は五十店舗分の契約書ではなく、三十店舗分に署名した。壮真の今月の数字は小さくなった。
夕方、工場から電話が来た。
「箱屋が、十個用なら今夜版を起こせるって」
壮真が駅へ向かうと、別の百貨店から留守電が入っていた。
〈五月の母の日商品、十五個入りで提案してほしい〉
彼は再生を止め、まず棚の寸法を尋ねるメールを書いた。