十四分だけ残った投稿
動画アプリの安全対策室で、鏡味知世の夜勤は午前五時半に終わる。五時十六分、最後の通報が自動振り分け箱へ入った。
〈知らないアカウントが私の名前で、友達に「家出した」と送っています〉
判定は〈なりすまし・低優先〉。添付画像も少なく、通報者は十七歳だった。新人の担当者は、本人確認書類を求める定型文を送ろうとしていた。
知世は、偽アカウントの作成時刻を見た。十分前。その直後から、通報者の本物のアカウントへログイン失敗が続いている。さらに偽アカウントは、まだ公開されていない投稿を二本、予約状態で持っていた。学校名が分かる制服の写真と、自宅近くの店が映る動画だった。
「定型文は止めて。本人確認を待つ前に、公開予約を凍結する」
「でも、なりすましだけでは緊急停止の基準に届きません」
「これは名前の問題だけじゃない。居場所を出す準備がある」
知世はアカウントの公開機能を一時停止し、証拠保全の手続きを取り、未成年者安全チームへ引き継いだ。本物の利用者へは、書類の写真を送らせる前に、登録済みの別経路で本人確認できる手順を案内した。十四分後、予約投稿の公開時刻を過ぎたが、画面には何も出なかった。通報者からは、友人へ偽の連絡が止まったという短い返信が届き、知世はそれも保全記録へ加えた。
新人は、自分が閉じかけた通報票を見つめていた。
「低優先って、低い危険という意味じゃないんですね」
「機械が見つけた入口の名前。出口まで同じとは限らないよ」
知世は検索項目を一つ変えた。〈なりすまし〉に加え、未成年、位置情報、予約投稿の組み合わせを、夜間の再確認一覧へ上げる。個人の勘で拾い続ければ、次の人が見落とす。
朝の引き継ぎ後、知世は半年前から開いたままの社内公募を見た。現場対応より会議が増える安全ポリシー職を、机上の仕事だと思って避けていた。
けれど十四分を守る規則は、誰かが机で作らなければならない。
知世は応募理由の最初に、今夜変えた検索条件を書き、送信した。