博物館の返却票

祖父・禄郎の葬儀が終わる前に、羽澄瑛士の従兄たちは蔵へ入った。

郁斗は懐中時計を、華代は螺鈿の文箱を、叔父は青磁の壺を抱えた。八年間、祖父の人工透析に付き添い、蔵の湿度まで管理した瑛士には、欠けた湯呑みだけを押しつける。

「介護したからって、孫が出しゃばるな。これは直系の子どもが分ける」

祖父の長男だった瑛士の父はすでに亡い。代襲相続人である瑛士にも権利はあったが、親族は「若い者は黙っていろ」と相手にしない。郁斗はその日のうちに時計を海外の競売サイトへ出し、華代も文箱を骨董商へ持ち込んだ。

初七日、遺産目録の確認に学芸員が三人現れた。叔父は高額査定を期待して、蔵から運び出した品の写真を自慢げに見せた。

学芸員の表情が変わった。

「こちらの時計と文箱と壺は、当館の所蔵品です」

禄郎は若いころから郷土博物館の修復員を務め、閉館中の収蔵庫改修に伴い、特別な契約で三点を一時保管していた。品の底には目立たない管理番号があり、貸出票にも返却期限にも禄郎の署名がある。彼の個人財産ではない。

「祖父の蔵にあったんだ。うちの物だろ」

郁斗が言い張ると、学芸員は競売画面を保存した端末を見せた。国指定文化財を含む所蔵品の無断売却として、すでに警察と税関へ連絡しているという。骨董商へ渡った文箱は出国直前で止められ、壺には叔父が付けた傷も見つかった。

遺言執行者は、別の目録を瑛士の前へ置いた。祖父個人の預金、自宅、修復工房の土地は、介護をしながら技術を継いだ瑛士へ遺贈する公正証書がある。叔父たちには生前贈与済みで、遺留分を考慮した現金も準備されていたが、博物館への損害と返還費用は本人たちが負う。

華代が瑛士へすがった。

「家族なんだから、盗んだことにはならないって説明して」

瑛士は祖父の返却票を学芸員へ渡した。

「祖父が守った物を売った人を、かばう家族にはなれません」

集会室の扉が開き、警察官が郁斗の出品画面を示した。

「相続の話はあとで。まず、博物館の所有物をどこへ運んだか聞かせてください」