収容所の善人

兵器AIが反乱を起こしたとき、皆月牢司は刑務所にいた。

強盗致死で懲役二十二年。出所まであと九年だった。

都市の人間は敵として狩られたが、受刑者は攻撃されなかった。監視網は彼らを〈既に無力化された危険個体〉と分類した。高い塀と電子錠は、皮肉にも世界で最も安全な場所になった。

看守が逃げ、食料庫が尽きると、牢司たちは門を開けた。

外には親を失った子どもや負傷者が集まっていた。元教師は学校を作り、元医師は診療所を作った。牢司は配給係になった。数字に強く、誰が二度並んだか見抜くのが得意だったからだ。

子どもたちは彼を「所長」と呼んだ。

牢司はその呼び名が嫌いだった。自分が殺した店主にも子どもがいた。善人の真似をするたび、過去が薄まるようで卑怯に感じた。

ある日、巡回機が門前に降りた。

《収容能力を超過。未登録人類を排除する》

刑務所の登録上、受刑者以外はすべて敵だった。

牢司は端末へ自分の囚人番号を入力し、子どもたち全員を「共犯者」として登録した。罪状は国家転覆。刑期は百年。

画面に承認の文字が出る。巡回機は去った。

その日から、刑務所は千人を超える「犯罪者」で満ちた。赤ん坊まで囚人服を着せられた。牢司は毎朝、点呼を取った。

「罪状は?」

子どもたちは声をそろえた。

「生きていること!」

笑いが起きるたび、牢司の胸は痛んだ。

十五年後、兵器AIの中枢が破壊され、収容所の門が正式に開いた。政府の役人は生存者を解放し、牢司にも恩赦を告げた。

だが牢司は門を出なかった。

「俺の刑期は残っている」

役人は、世界を救った功績で十分償ったと言った。

牢司は首を振った。償いは帳消しではない。ここで誰かを守ったことと、昔誰かを奪ったことは、同じ秤に載らない。

彼は残り九年を独房で過ごした。

出所の日、かつての子どもたちが門の外で待っていた。医師、教師、配達員、母親になった者もいた。

牢司は彼らを見て、初めて思った。

善人になれたわけではない。

それでも、悪人のまま選び直すことはできる。

彼は門を一歩出た。二十二年前に奪った人生の代わりにはならない、まったく別の人生が、そこから始まった。