受け取った黒い帯

田地川瑚都は、黒い帯を配膳口へ放り込んだ。

向こう側から伸びた白手袋が、反射的にそれを受け止める。帯が床へ落ちれば回収しろと命じられていたのだろう。指は迷わず閉じ、黒布を掌の中へ引き込んだ。帯の認証灯も、その手の体温を一人分として読み取っている。

八木沼奏汰と葛西路伊都が同時に立ち上がった。壁には一つの規則。

〈制限時間内に黒い帯を一人へ手渡せ。受け取った人物を犠牲者とし、残る参加者を解放する〉

三人は、互いの首へ帯を巻くゲームだと思っていた。奏汰は瑚都の腕を押さえ、伊都は配膳口の存在すら気にしていなかった。

瑚都は開始前から、一定間隔で水と紙が差し入れられるのを見ていた。差し出す手は人間のものだ。規則は「参加者へ」と限定していない。

白手袋は帯を捨て返そうとした。しかし受け取った瞬間、配膳口の縁にあるセンサーが緑に光っていた。

〈受領者の生体反応を記録〉

『係員への接触は無効です』

「手渡しは成立した。私が投げて、あの人が受け取った」

『手から手へ渡していない』

「投げ渡す、という日本語があるでしょう」

帯の内側から細い金属線が伸び、配膳口の向こうへ巻き取られる。係員の手首に装着されたらしい。慌てた息と、椅子が倒れる音が聞こえた。

奏汰は瑚都を睨む。

「見ず知らずの人間を代わりに殺すのか」

瑚都は配膳口の下を指した。床には、使い終えた注射器を回収する箱がある。中には参加者番号のついた血まみれの針が何本も入っていた。

「向こうの人は食事係じゃない。前の犠牲者に毒を打った執行係よ」

主催者が口を挟む前に、判定音が鳴る。

〈人物一名への手渡しを確認〉

〈条件成立〉

三人の首輪が外れた。

伊都が小さく息を吐く。

「帯を受け取らなければよかったのに」

「私たちが何を差し出しても、あの手は受け取るよう訓練されていた。命令に従うことを安全だと思っていたのよ」

扉が開く。配膳口の向こうでは、今まで死を渡してきた手が、初めて自分の帯を外そうともがいていた。