召喚失敗者に届いた三つの契約
召喚士ユーディが呼び出したのは、伝説の獅子でも炎竜でもなかった。
掌に乗るほど小さな、灰色のモグラだった。
学院最終試験の観客席から笑いが起こり、所属予定だった金獅子班の教官は契約書を破った。
「穴掘りしかできない獣と、遠征には出られん」
翌週の班別勧誘会で、ユーディは壁際に立っていた。退学届を出す前に、モグラへ餌を買う金だけ稼ぐつもりだった。
ところが三つの班が彼を呼んだ。
槍兵隊長カシアは、自分の予備槍をユーディへ預けた。
「地下遺跡では足元が命だ。地中を読む相棒ごと欲しい」
魔法史研究者モルドは、資料で埋まった長机の一角を片づけた。
「古代都市の空洞を探してくれ。君の席はここ」
遊撃商隊の護衛ティエラは、出発用の荷車に小さな木箱を据えつけていた。中には土と毛布が敷かれている。
「君の召喚獣も乗員でしょう。夜まで返事を待つわ」
三人は互いに譲らず、モグラはユーディの肩で鼻を鳴らした。
小さな前脚は三枚の契約書を順番に押さえた。まるで、どれも捨てるなと言うようだった。
そのとき、勧誘会場の床が大きく沈んだ。旧水路が崩れ、中央に亀裂が走る。ユーディは咄嗟にモグラへ命じ、地中の安全な筋を探らせた。
だが焦った指示で、獣は反対側へ穴を掘った。柱が一本傾き、天井から砂が落ちる。
「また失敗した……!」
ユーディは三枚の契約書を机へ戻した。
「僕を入れたら班ごと潰します。もう行ってください」
また笑われ、置いていかれる。そう覚悟した直後、カシアの槍が傾く柱を支えた。
モルドは古い見取り図を床へ広げ、ティエラは荷車の綱を梁に結ぶ。三人とも出口へ向かわない。
「反対側で正解だ」とモルドが図を示した。「そちらに避難用の空洞がある」
「柱を崩したんじゃない。崩落を先に教えたのよ」とティエラ。
カシアは槍を支えたまま、顎でモグラを示す。
「小さいから何だ。全員を生かした」
救助が終わっても、予備槍はユーディの手に残った。研究机の一角は空き、荷車の木箱には新しい餌が置かれた。
彼はまだ所属先を選べない。
けれど肩の小さな相棒ごと迎える場所が三つ、崩れた床の向こうで待っていた。