呪石を見誤った鑑定士

鑑定士キールが青い宝石を「無害」と告げた三分後、依頼人の腕に黒い蔦が巻きついた。

宝石は古代の呪石だった。聖堂の術師が蔦を焼き切ったため命は助かったが、依頼は中止。ギルドの掲示板には赤字で失敗印が押された。

キールは鑑定眼を持たない。細かな傷、産地の土、魔力の匂いを積み重ねて答えを出すだけだ。それでも今までは外さなかった。

一度外せば、ただの眼鏡を掛けた荷物持ちである。

依頼人は助かった後も、キールを見ようとしなかった。受付では『鑑定士変更届』の用紙が三枚置かれ、周囲の冒険者が次に雇う者の名を囁いていた。キールは自分の名が共同名簿から消える瞬間を待ち続けた。

酒場で女騎士ゼルマは剣を磨き、商人魔術師オデットは硬貨を数え、盗賊ラーフは窓から外を見ていた。誰もキールに次の依頼を尋ねない。

前の仲間たちも同じだった。役に立つ間は肩を組み、失敗した夜だけ急に静かになった。

キールは鑑定道具を箱へ詰めた。

「紹介状は要りません。夜明け前に出ます」

ゼルマが磨き終えた剣を鞘ごと箱の上へ置く。

「明日の競売品だ。お前以外には本物か見せない」

オデットは数えていた硬貨を三つの袋に分けず、一つの共同財布へ戻した。

「違約金を払った残りよ。四人なら次の宿に二泊できる」

ラーフは窓枠から降り、キールの眼鏡へ小さな留め金を付けた。盗賊が鍵開けに使う銀線で作ったものだった。

「落とすと困る。次は近くで一緒に見る」

キールは剣を返そうとした。

「また間違えるかもしれない」

ゼルマは受け取らず、向かいの椅子を蹴って近づけた。

「なら三人で止める」

「正解だけ欲しいなら鑑定機を買うわ」とオデットが宿帳へ四人分の名を書く。

ラーフは窓の外に停めた馬車へ指を向けた。馭者は毛布を被り、まだ手綱を取らずに待っている。

「夜明け前に出るんだろ。行き先は四人で決める」

失敗印の赤は消えない。だが共同財布も、預けられた剣も、眼鏡の銀線も、キールを一人に戻さなかった。

宿帳の最後の一行には、四人の名が同じ部屋番号の横に並んだ。