四つ目の橋灯

川沿いの古い橋を、青年は十年渡っていなかった。

高校時代、友人が自転車ごと欄干へぶつかり、帰らなかった橋だ。

あの夜、友人から電話が来た。喧嘩のあとだったので、青年は画面を伏せた。

橋は遠回りすれば避けられる。

就職しても、引っ越しても、帰省のたび別の道を選んだ。

ある冬、工事で迂回路が閉鎖され、仕方なく橋へ入った。

四つ目の街灯だけが明滅している。

灯りが消え、つき直すたび、欄干にもたれる友人の姿が濃くなった。

友人は、四つ目の灯りが瞬いている間だけ橋に立てた。

「遅い」

「電話のこと?」

「橋を渡るのが」

友人は事故の夜と同じ制服姿だった。

青年は謝ろうとしたが、友人は川面を見た。

「あの電話、何を言うつもりだったと思う?」

「仲直り」

「違う」

胸が冷える。

「妹の自転車、直すの手伝ってって」

友人の妹は当時小学生だった。

兄が教える約束をしていたが、事故のあと自転車へ乗らなくなった。

青年は葬儀で一度会ったきりだ。

「電話に出てたら、事故は?」

「起きたかも。起きなかったかも。死んだ方も分からないことを、生きてる方が十年決めるなよ」

街灯が長く消え、友人の足元が透けた。

青年は柱を叩いた。灯りが戻る。

「心残りは妹?」

「半分」

「残りは?」

「お前が橋の向こうへ行かないこと」

友人は、事故の日、自転車で町を出るつもりだったと話した。

家庭の事情で、親戚の家へ移る。

喧嘩したのは、青年が「逃げるのか」と言ったから。

友人は仲直りではなく、妹の自転車を頼み、自分がいなくても二人で練習してほしかった。

「どっちにしても置いていくつもりだったんだ」

「だから、恨むなら事故だけにしろ」

青年は笑い、泣いた。

街灯の瞬きが遅くなる。

友人は欄干から離れ、橋の向こうを指した。

翌日、青年は友人の妹を訪ねた。

妹は大人になり、自転車店で働いていた。

「兄の友達でしょう。橋を避ける人」

知られていたことに驚いた。

電話の話をすると、妹は古い自転車を店の奥から出した。

兄が途中まで直した物を、何年もかけて自分で完成させたという。

二人で橋を渡った。

四つ目の街灯は修理され、もう瞬かなかった。

橋の中央で妹が言った。

「兄を見た?」

青年はうなずいた。

「送る言葉ある?」

「もう自分で乗れる、って」

青年は暗くならない街灯へ、その言葉を置いた。

友人の姿は現れない。

それでも橋の向こうへ、足は止まらず進んだ。