国喰らいの本当の名
「固有名の元の意味が分かるだけ? 名前で魔物は倒せない」
封印院の査定で、タルンは無能とされた。
【能力:《名の根》――一日に一度、聞いた固有名一つが最初に持っていた字義を理解する】
真名で支配する力ではない。彼は地下封印庫の目録係へ回された。
王都に黒い疫病が広がった夜、最下層の檻から巨獣が目覚めた。
碑文に刻まれた名は《国喰らい》。百年前、三つの都市を呑んだ災厄として封じられた獣だ。疫病で兵が倒れる中、封印鎖まで腐り始める。封印王ギオザは、残る聖槍を巨獣へ向けた。
「疫病と国喰らい。二つを同時には止められぬ」
タルンは毎日、目録に同じ名を書いてきた。
古代語の複合名では、後ろの語が食べる対象とは限らない。最初の命名者が使った語順を能力へ尋ねる。
《名の根》。
《国喰らい》の元の意味は、「国を喰らうものを喰らう獣」だった。
百年前に消えた三都市では、獣が現れる前から同じ黒疫が流行している。人々は病で空になった街へ入った巨獣を、滅ぼした犯人と誤認したのだ。
「檻を開けてください」
ギオザは槍を向けたまま動かない。
「間違っていれば王都が喰われるぞ」
「閉じたままなら、もう喰われています」
鎖が切れる。巨獣はタルンを踏まず、病人の集まる地上へ鼻を向けた。
王都へ出た《国喰らい》は家も人も噛まなかった。空中に漂う黒い靄だけを大口で吸い込み、路地を一つずつ歩く。病人の肌から斑点が消え、腐っていた井戸水が澄んでいく。
最後の靄を呑み込むと、巨獣の腹が黒く膨れた。タルンは封印庫で毎日与えていた白塩を広場へ山と積む。獣はそれを舐め、毒を石の塊として吐き出した。
朝、王都から疫病は消え、鐘楼には三日ぶりの朝鐘が鳴った。
査定官が「名の解釈が偶然当たった」と言う。
ギオザは聖槍を下ろし、巨獣の額へ初めて手を触れた。
「百年、救い手を災厄と呼んで閉じ込めたのは我らだ」
封印王は地下庫の全鍵をタルンへ渡す。
「今日から檻を閉じる前に、その名をおまえへ読ませる」