地中の青い砂

最後の一本だから、予定どおり終わらせたい。現場の全員が同じ顔をしていた。

深夜の基礎工事。砂原弓佳が任されたのは、朝までに場所打ち杭の穴を掘り、鉄筋かごを入れられる状態にすることだった。掘削機の表示は設計深度へ到達している。ケーシングの先端も所定の位置。オペレーターは「支持層、来たよ」と親指を立てた。

弓佳は排出された土を長靴の先で崩した。灰色の粘土ばかりで、地質調査に記された青みのある砂礫が見えない。

「もう一メートル掘ってください」

「表示を疑うのか」

弓佳は機械ではなく、交換されたばかりの巻取りワイヤを見た。昼間の故障で新品に替えたと聞いている。ワイヤの長さを補正せず、古いゼロ位置のまま表示だけが動いていた可能性があった。

実測用のテープを穴へ下ろすと、深さは表示より一・六メートル浅い。ケーシングが途中で沈み込み、その分まで掘った長さとして数えられていた。

「このままコンクリートを入れたら、杭は支持層に届きません」

一本だけなら建物はすぐ傾かない。荷重は周囲へ逃げる。だからこそ、完成後に原因を見つけるのが難しい。

弓佳は工程を変えた。先に鉄筋かごを組み終える班を休ませ、掘削を延長する。青い砂が上がるまで掘り、底にたまったスライムをもう一度さらう。夜明け前の生コン予約は三十分後ろへずらした。

午前四時過ぎ、バケットの歯に青灰色の砂が光った。弓佳は手袋の上で粒を潰し、地質資料の袋と見比べた。今度は同じだった。

「来たな」

オペレーターが、さっきより小さく言った。

穴の深さを三人で測り、記録へそれぞれ署名した。鉄筋かごがクレーンで吊られ、暗い穴へゆっくり消えていく。

弓佳は掘削機の表示に補正値を入力させ、次の交代班へ口頭でも残した。数字だけ直しても、なぜ変えたかが伝わらなければ、誰かが親切のつもりで元へ戻してしまう。

弓佳が事務所へ戻る前に、生コン車のライトがゲートを照らした。最後の一本のはずだったが、机の上には翌日の杭芯検査の図面が広げられていた。地面の下の仕事は、見えなくなる前ほど忙しい。