地図の余白にある道
黄昏鴉ギルドで、地図師オルファンの机はいつも隅にあった。
彼の地図には妙に広い余白がある。線も薄く、華やかな魔物の絵もない。攻略班長カレスは、見栄えの悪い紙を嫌った。
貢献板に映るオルファンの値は五%。
「迷宮へ入らず、帰った者の話を写すだけ。そんな仕事に席はいらない」
オルファンは地図を丸め、机を空けた。余白の意味を説明しようとはしなかった。説明を求めた者が、今まで誰もいなかったからだ。
ほどなく、カレス率いる精鋭班が変動迷宮へ向かった。彼らは新しい豪華な地図を持っていた。壁には色が塗られ、宝箱の絵まである。
だが迷宮が動くと、色鮮やかな線はすべて嘘になった。通路が折れ、階段が沈み、帰還路が閉じる。班は同じ広間へ何度も戻り、魔力灯だけが弱っていった。
救援要請を聞いたオルファンは、ギルドへ戻らず、迷宮の外壁へ向かった。捨てられていた自分の地図を石へ広げる。
余白は空白ではなかった。迷宮が動いたとき、通路が移る先を残すための場所だった。帰還者の曖昧な言葉、壁についた苔、風向きの変化。確定していない情報を無理に線へせず、未来の道として空けていたのだ。
オルファンは余白へ新たな線を引き、救援班へ渡した。精鋭班は、その線の通りに現れた裂け目から救い出された。
泥だらけのカレスは地図を握りしめた。
「戻れ。今度は見やすい地図を描かせる」
「見やすい嘘より、読みにくい事実を選ぶ人の下でだけ描きます」
迷宮監測核が起動し、過去の攻略記録と彼の余白を重ねた。危険な変動を避けた道、行方不明を出さなかった経路、撤退を成功させた判断が浮かび上がる。
救出された者たちは、泥のついた地図を囲んだ。余白の端には、帰還者が口ごもった場所や、亡くした仲間の名前を無理に道へ変えなかった印がある。オルファンは不確かな記憶を嘘で埋めず、迷宮が答えるまで残していた。
彼は新しい地図室の条件として、撤退の決定権を求めた。宝が近くても、道が読めなければ戻す。
「攻略とは奥へ行くことではありません。帰る道を失わないことです」
精鋭班の誰も反論できなかった。
《迷宮攻略・真正査定》
旧評価 五% → 真値 九十二%
総合貢献順位 首位:オルファン
役職更新 地図師 → 攻略経路責任者
攻略班長カレス → 経路承認申請者