城壁のひびは敵より正直だ

王都西壁の碑文係キサラは、古い落書きを読むだけの女だと軽んじられていた。

工兵長は彼女の報告書を暖炉へ投げ、石のことは石工に任せろと言った。

【固有スキル《痕跡翻訳》:対象に連続して残された痕跡を、原因と順序を示す文章へ置き換える】

敵軍が現れた朝、キサラは第三塔の壁に細い亀裂を見つけた。外からではなく、内側から始まっている。

「支柱が切られています。七度目の衝撃で城内側へ倒れます」

工兵長は笑った。

「ひびが数を数えるのか?」

彼は第三塔へ兵を集め、敵の投石機を正面から受ける構えを取った。

一撃目。石粉が落ちる。

二撃目。亀裂が枝分かれする。

キサラが壁へ触れると、白い線が文章になった。

《六日前、内側の支柱を鋸で七割切断。切断者の靴底に王立工兵隊の三角鋲。崩壊方向、東十五度》

工兵長の靴底にだけ、その鋲が打たれていた。

三撃目。彼がキサラを捕らえようとする。

四撃目。兵たちは靴底を見て動きを止めた。

五撃目。キサラは塔から全員を退避させ、残った鎖を外壁側へ結び直した。

六撃目。敵の巨大破城槌が塔下へ進む。

七撃目。

塔は予定とは逆、城外へ倒れた。切られた支柱の力の流れを翻訳し、鎖一本で崩壊方向を十五度だけ変えたのだ。石塔は敵の破城槌と投石機をまとめて押し潰した。

工兵長は逃げようとしたが、靴の三角鋲が亀裂の記録と一致し、味方の槍が道を塞ぐ。

倒れた塔の断面から、細工された鋸と油布が露出した。油布には敵将の印、工兵長の懐には城門を開いた後の報酬額が書かれた札がある。彼が「女の妄想だ」と叫ぶたび、壁に残る指跡と足跡が順番どおり文章へ変わり、逃げ道を一つずつ塞いだ。

第三塔に集められるはずだった兵は全員無傷。逆に敵軍は攻城具を失い、退却の角笛を鳴らした。兵たちは煤まみれのキサラへ、工兵長が一度も渡さなかった指揮槌を差し出す。

歓声が上がるより先に、キサラの職業札へ新しい文字が刻まれた。

【職業《碑文係》が上位職《構造通詞》へ書き換わりました】