壁紙の継ぎ目
直樹と冬馬が義理の兄弟だった期間は、わずか二年半だった。直樹の母と冬馬の父が再婚し、同じ高校へ通い、卒業前に離婚した。それから八年、連絡は途切れていた。
冬馬から電話が来たのは、賃貸の退去日を三日後に控えた夜だった。
「壁、やった」
送られてきた写真には、拳ほどの穴が写っていた。
「業者呼べ」
「金ない」
「俺も壁屋じゃない」
「ホームセンター勤務だろ」
「園芸担当だ」
それでも直樹は翌朝、補修材と壁紙を持って部屋へ行った。穴は写真より大きかった。冬馬は失恋して殴ったのだという。直樹は理由を聞かず、崩れた石膏を四角く切り取った。
「板、裏から当てろ」
「どうやって」
「手、入るだろ」
「おまえの方が細い」
「俺を呼んだくせに働かせるな」
悪態をつきながら、二人で下地を固定した。パテを塗り、乾くまで床で弁当を食べた。冬馬の箸は途中で止まりがちだった。
「母さん、再婚したって」
「知ってる」
「行った?」
「式には」
「俺、呼ばれてない」
「住所変えたからだろ」
冬馬は笑ったが、目は笑っていなかった。直樹も、自分だけ呼ばれたことを後ろめたく思っていた。だが今さら説明する言葉は見つからない。
乾いたパテを削り、壁紙を貼る。柄合わせに失敗して、一筋だけ継ぎ目が見えた。冬馬は「これじゃばれる」と言った。
「近づけばな」
「管理会社は近づく」
「じゃあ棚を置け」
「もう引っ越すんだけど」
結局、余った壁紙でもう一度やり直した。今度はほとんど分からなくなった。直樹が道具を片づけていると、冬馬が段ボールから古い写真を出した。高校の入学式、二人とも不機嫌な顔で並んでいる。
「これ、そっちに入ってた」
「いらないなら捨てろ」
「そっちの荷物だろ」
「俺の部屋、まだ箱だらけだ」
冬馬は写真を補修材の袋に差し込んだ。
退去確認は無事に終わった。数日後、直樹の部屋へ宅配便が届いた。差出人は冬馬。中には、使いかけのパテと、あの写真、それから新居の住所を書いた紙が入っていた。
紙の端に〈壁紙余ってるなら置いとけ〉とある。
直樹はパテを物置へしまい、写真を玄関の棚に伏せて置いた。捨てる場所ではなく、外から帰ったとき最初に手が届く場所だった。