夜を一人ぶんずつ

退却の角笛が鳴ったとき、月は雲から出てしまった。

平原には敵の弓兵が並び、城門まで遮るものはない。生き残った兵は二十三人。矢が届く前に走り切れる者は一人もいなかった。

リュメイは地面から上半身を起こした。髪も爪も黒く、腰から下は夜そのものにつながっている。人間を一人、自分の影へ沈めれば、その者は光にも矢にも触れられなくなる。

代わりに彼女は、自分と世界を分ける境界を一つ失う。

最初の兵を呑むと、足の感覚が消えた。

二人目で指の輪郭がほどけた。

三人、四人。兵たちは冷たい影の中を泳ぐように城門へ進む。リュメイの腕は煙になり、肩は夜空へ溶けていった。

「全員は無理だ」

隊長のガトが言った。腹の傷から血が落ちている。

「俺を置いて、若い者を運べ」

リュメイは返事の代わりに影を広げた。

十人目で、鼻がなくなった。十五人目で、口が消えた。十八人目を送り届けたとき、自分が女の形をしていたことさえ曖昧になった。

敵の弓弦が一斉に鳴る。

残った四人を影へ押し込み、矢の雨を地面で受け流した。黒い面に突き立った矢は、どれも沈んで消えた。そのたび輪郭が裂け、夜へ混じる。

城門の兵が最後の四人を引き上げた。

平原に残ったのはガトだけだった。

「お前まで来い」

彼は地面へ手を差し入れた。もうリュメイの手はない。それでも影は彼の指へ絡みついた。

最後の一人を包めば、彼女は自分と地面の境を失う。二度と立ち上がれない。

ガトの背後で敵兵が槍を構えた。

影が膨らみ、彼を丸ごと呑んだ。

次の瞬間、ガトは城門の内側へ吐き出された。門が閉まり、敵の槍は黒い地面だけを貫いた。

夜明けまで、誰も眠らなかった。

太陽が昇ると、平原には人の姿がなかった。ただ城門の外から内へ、一本の長い影が伸びていた。光の向きに逆らい、敷石の隙間へしがみついている。

ガトはその端へ膝をついた。

「リュメイ」

影は答えられない。口も耳もなく、どこまでが自分なのかも分からない。

彼が手を置いた場所だけ、黒さがわずかに濃くなった。

それ以来、城門を通る者には必ず影が二つできた。一つは本人のもの。もう一つは、二十三人を守ったあと、人の形へ戻れなくなった夜だった。