夜勤服の白い糸

ホテルの制服は、コインランドリーの蛍光灯の下で見ると、仕事中より頼りなく見えた。

 紺色のジャケット。白いブラウス。膝丈のスカート。美弦はそれらを洗濯ネットへ入れ、いちばん小さな機械へ押し込んだ。

 夜勤明けの午前三時だった。

 ロビーでは背筋を伸ばし、客の前では歩幅まで揃える。名札を付ければ名字で呼ばれ、外せば誰にも呼ばれない。その切り替えが、夜勤の終わりにはうまくできなくなる。けれど店内の黄色い椅子に座ると、制服の持ち主が自分であることさえ少し遠かった。

 給水の音がする。

 洗濯機が回る。

 空調が回る。

 雨上がりの道路を、新聞配達のバイクが一台だけ通り過ぎる。

 美弦は膝の上で手を組んだ。右手の人差し指には、チェックインカードで切った細い傷がある。今夜は外国語の問い合わせが続き、最後には笑顔の形だけが顔へ残っていた。

 向かいの椅子に、先客がいた。

 黒いコートの女性で、膝の上に赤い布を置き、小さな針を動かしている。裾を直しているらしい。針が蛍光灯を拾い、上下するたび一瞬だけ光った。

 会話はなかった。針が布を抜ける小さな音だけが、乾燥機の低い回転へ時々混じった。美弦は相手の手元を見すぎないよう、窓の雨粒を数えた。

 女性は縫い終えると、糸を歯で切らず、小さな鋏で静かに切った。赤い布を畳み、乾燥機から黒い服を取り出し、店を出た。

 椅子の端に、白い糸が一本残っていた。

 空調の風で持ち上がり、落ちる。持ち上がり、落ちる。

 洗濯が終わり、ブラウスを取り出したとき、美弦は袖口のボタンが緩んでいることに気づいた。いつもなら帰宅してから付け直し、アイロンもかける。完璧に戻してからでなければ眠れない気がしていた。

 けれど今夜は、バッグに入っていた安全ピンで裏から留めた。

 白い糸は拾い、忘れ物用の小皿へ置いた。

 乾燥を短く済ませ、制服をハンガーへ掛けて持ち帰る。袖口には小さな銀色が隠れている。明日の客には見えないし、美弦だけは知っている。

 部屋へ着くと、アイロン台を出さずに制服を吊った。

 次の夜勤まで、まだ眠る時間がある。

 今夜の自分は、仮留めのまま休んでもよかった。