婚礼実技、欠席します

魔法学院の首席ヴィオラは、卒業実技で嵐を暴走させた。負傷者はいなかったが、王都の塔が一本折れた。賠償の代わりに、宰相家の嫡男との婚姻が決まり、卒業式はそのまま婚礼へ作り替えられた。

壇上で契約指輪を差し出され、ヴィオラは客席を見ないようにした。実技班の三人には「私の失敗に巻き込まれたくないなら来ないで」と手紙を送った。返事はなかった。これでいい。どうせ役に立たない術師は、最後には一人になる。学院時代、成績が落ちた友人から順に班を替えられる光景を何度も見た。首席でなくなった自分に同じことが起きるだけだと、言い聞かせていた。

指輪が指へ触れる寸前、一本の杖が壇上を滑った。

決闘科のアーヴィンが、自分の愛杖をヴィオラの前へ差し出している。

「返却期限なし。次の実技で折っても構わない」

客席では治癒科のカイルムが、自分の隣に三冊の教本を積み、明らかに一席を塞いでいた。ヴィオラと目が合うと、本を床へ下ろす。

「補講の席。卒業しても欠席扱いにはしない」

校門から馬車の車輪音がした。錬金科のベネトが、逃走用とは思えない派手な花飾りの馬車を止めている。

「花は婚礼用を流用した。行き先は未定。君の支度が遅くても待つ」

宰相が警備を呼ぶ。だが学院長が、アーヴィンの杖から記録結晶を抜いた。嵐の中心でヴィオラが行ったのは暴走ではなく、宰相家の地下実験から漏れた雷精を塔へ逸らす緊急術式だった。塔一本と王都全域を交換した判断だった。

拍手が起きる。けれどヴィオラは杖に触れられない。結果が正しかっただけで、術式は危うかった。また仲間を危険にさらせば、今度こそ補講の席も馬車も消える。

「次は、本当に失敗するかもしれない」

アーヴィンは杖から手を離した。カイルムは空席を指で叩き、ベネトは馬へ餌袋を掛けた。

「そのときのための班だ」と三人は笑った。

ヴィオラは指輪ではなく杖を取った。誰の馬車の隣に座るかは決めず、まず補講席へ降りる。そこには三人分のノートが開かれ、彼女の帰る班だけが、卒業を拒んで残っていた。