家族割は四名から
携帯電話店で、宇賀神凌伍は恋人の羽牟野そよかと料金表を見ていた。
「家族割、四名から最大か」
「私たち二人しかいないね」
「外に友達が二人いる。家族のふりを頼もう」
店員が戻る前に、凌伍は友人の男女を呼び込んだ。
「今日だけ兄と妹で」
友人が尋ねる。
「どっちが兄?」
「年上の方」
「三か月差で家制度を決めるな」
店員は四人を見て笑顔になった。
「ご家族皆様でのお申し込みですね」
凌伍はうなずく。
「はい。近いうちに正式な形へ」
そよかが小声で言う。
「そこまで言うと結婚みたい」
「実際、来年する予定だろ」
店員の目が輝いた。
「ご婚約ですか!」
友人二人が拍手する。
凌伍は流れで頭を下げた。
「まだ両親への挨拶前ですが」
「では、本日はご兄妹もご同席で」
偽の兄が胸を張る。
「妹をよろしく」
そよかがにらむ。
「あなた、私より年下でしょう」
「役へ入ってるんだ」
店員は家族構成を入力し始めた。
「お兄様のお名前は?」
「道端で拾った兄なので」
「養子縁組?」
「そうではなく」
偽の妹が助け舟を出す。
「複雑な家庭なんです」
「あなたが複雑にしたの」とそよか。
説明するほど、店員の理解は別方向へ進んだ。
「では、お二人のご結婚後は四名で同居を?」
凌伍が答える。
「割引が続くなら」
そよかが肘で突く。
「家賃のほうが高い」
偽兄も言う。
「私は同居しないぞ」
「兄が家を出る?」
「独立です」
店員は感心する。
「ご家族の将来設計まで」
店長まで現れ、婚約祝いの記念写真を勧めた。
「当店のウェブサイトへ掲載しても?」
四人が同時に断った。
ようやく本人確認書類の段階になり、住所が全員違うことが判明した。
店員が首をかしげる。
「今回の家族割は、同一住所か戸籍上のご家族が対象です」
凌伍は料金表を見直す。
「家族のふりでは?」
「対象になりません」
偽兄が肩をたたく。
「演技代、昼飯でいいよ」
偽妹も続く。
「婚約祝いもね」
そよかは凌伍へ微笑んだ。
「割引は失敗したけど、両親への挨拶は決まったね」
家族割より先に、結婚の日程が適用された。