寝たきりの演技

浜路喜代美は、令香が玄関を開けると足が動かなくなった。

「腰が痛くて一歩も歩けないの」

夫の啓太郎は母を背負うよう令香へ言い、義父の辰雄は「嫁の務めだ」と杖を渡す。買い物、入浴、掃除、通院。令香が仕事に遅れるたび、三人は「家族より会社が大事か」と責めた。

だが令香が出勤したあと、喜代美は自分で車を運転していた。

令香が介助中に腰を痛め、休職した日も、啓太郎は母の味方だった。

「母さんは本当に病気だ。疑うなんて冷たい女だな」

半年後、離婚調停の席で、喜代美は車椅子に座って現れた。辰雄が押し、啓太郎が毛布を掛ける。

「この嫁は、動けない母を捨てたんです」

啓太郎は調停委員へ訴えた。

「慰謝料を払うのは令香の方でしょう」

令香の弁護士がリモコンを押した。

画面に、赤いドレスで社交ダンスを踊る喜代美が映った。撮影日は、令香が救急搬送された翌日。続いて、重い鉢植えを運ぶ姿、階段を駆け上がる姿、辰雄と笑いながら車椅子を荷台から下ろす姿が流れる。

喜代美が立ち上がりかけた。

「盗撮よ!」

「映像は、あなた方が設置した見守りカメラです」

弁護士は答えた。

「啓太郎さんが『嫁がさぼらないように』と全室へ付け、家族共有クラウドへ保存していました」

次に再生されたのは、三人の会話だった。

『令香がいる間だけ乗っていればいい』

『仕事を辞めれば、ずっと介護させられるな』

『腰を痛めたなら好都合よ』

令香の診断書と休業証明が机に置かれる。後遺障害、失職による損害、虚偽の介護を強いた精神的苦痛。慰謝料千百万円を含む請求総額は三千百万円だった。

辰雄は車椅子の取っ手を離した。

「そんな金はない」

弁護士が決定書を示す。

「自宅と定期預金には仮差押命令が出ています。また、虚偽申請していた介護給付について自治体が返還調査を開始しました」

喜代美の携帯が鳴った。銀行から、住宅ローン口座を含む全取引停止の通知だった。

車椅子から立ち上がった喜代美を、今度は誰も支えなかった。