寮食堂の赤い塩壺

全寮制高校の夕食で、汐見ひよりのスープだけが真っ赤だった。

「辛いの苦手だったよね?」

須藤真帆は笑いながら、ひよりの盆を囲む。三人の取り巻きがスマートフォンを構えていた。前にも発作止めを隠され、苦しむ姿へ笑い声の効果音を重ねて投稿されたことがある。ひよりが咳き込めば、また動画にして「大げさ女」と投稿するつもりだ。

だが辛味ではない。ひよりには重い甲殻類アレルギーがある。スープから、海老粉末の匂いがした。

「これ、誰が入れたの」

「自分で入れて騒いでるんじゃない? 注目されたいんでしょ。食べて無事なら、私に土下座して」

真帆はわざと大声にし、食堂監督へ訴えた。

「先生、汐見さんが私を犯人扱いします。塩壺には触ってません」

監督は赤い塩壺を取り上げる。共用調味料なら、誰が触れたか分からない。

ひよりは震える指で蓋を回した。内側に、寮の備品ではない小さな銀紙が貼られている。

「それ、何?」

「あなたの配信用ステッカー」

銀紙には真帆のチャンネル名が透かしで入っていた。けれど、それだけなら貼られたと言い逃れられる。

真帆は勝ち誇り、自分のスマートフォンを示した。

「私の動画を確認すれば? ずっと部屋で配信してたから」

監督が再生すると、配信開始前の待機画面まで自動保存されていた。鏡の中で真帆が海老粉末の袋を塩壺へ注ぎ、「救急車が来たら再生数いくかな」と笑っている。彼女は配信を切ったつもりで、限定公開のテスト配信を続けていた。

真帆は端末を奪おうとする。

「編集よ! ひよりが作ったの!」

「配信会社から原本提供済みです」

食堂の入口に、校長と警察官、真帆の配信事務所担当者が立っていた。ひよりが昼に塩壺の裏で見つけた銀紙を保健室へ届け、夕食の配膳前から正式に相談していたのだ。食事には一口も手をつけていない。

担当者は契約解除通知を読み、校長は続けて処分書を開く。

「須藤真帆。生命を危険にさらすいじめ行為により退学処分、傷害未遂の疑いにより警察へ引き渡す」