屋上へ続く紙の星

 文化祭前日の放課後、津守葉月は階段に落ちている紙の星を拾った。

 一枚、二枚、三枚。色画用紙を切った小さな星が、三階から四階へ続いている。

「誰、散らかしたの」

 それは葉月が装飾係として作り、派手すぎるからと外された星だった。ごみ袋へ入れたはずなのに、赤、黄、銀の順で、まるで道しるべのように並んでいる。

 星を拾いながら上ると、行き着いたのは屋上の扉だった。

 鍵は開いていた。

 夕方の風の中で、久世奏多が金網に何かを結びつけていた。外された星を糸でつなぎ、大きな星座にしている。中央だけ空いていて、最後の一枚を待っていた。

「何してるの」

 葉月の声に、奏多は肩を跳ねさせた。

「勝手に持ち出してごめん」

「そうじゃなくて」

「飾る場所がないなら、作ればいいかなって」

 屋上は文化祭の立入禁止区域だ。誰にも見せられない飾りを作って、意味があるのか。

 そう言うと、奏多は糸を歯で切りながら答えた。

「見せたい人には見せられた」

 風が吹き、紙の星座が一斉に裏返った。裏側には、クラスメートが装飾作業中に書いた落書きが残っていた。眠い、腹減った、あと二日。葉月への文句まである。どれも捨てる前には気づかなかった文字だった。

「これ、全部読んだの?」

「うん。津守が一人で切ったのも知った」

「みんな手伝ったし」

「最初の百枚は一人だった」

 奏多は中央の空白へ、白い星を差し出した。

「最後だけ、津守がつけて」

 受け取ると、裏に小さく文字があった。

 文化祭で一番見たいもの――津守が笑ってるところ。

「これ、告白?」

「星座の説明文」

「展示できないのに?」

「だから言える」

 葉月は笑ってしまった。すると奏多が、急に困った顔をする。

「今の、見たから。目的達成」

「勝手に終わらせないで」

 葉月は白い星を中央に結んだ。指が震えて、結び目が何度もほどけた。奏多は手伝わず、隣で待っていた。

 ようやく星が留まると、夕日を受けた星座が金網いっぱいに揺れた。

「明日、撤去されるよ」

「今日見たからいい」

「私も?」

「何が」

「見たいもの、見たから」

 下から先生の声がして、二人は慌てて星を外した。

 文化祭当日、屋上には何も残っていなかった。

 ただ葉月の名札の裏には、白い星が一枚。奏多の胸ポケットには、その星と同じ糸の結び目が、閉会までずっとのぞいていた。