巨人が膝を曲げない客室

山巨人の血を引くモーガは、どの宿でも同じことを言われた。

「縮身薬を飲め」

「厩なら空いている」

「床を抜いたら弁償だ」

だから宿《広葉樹》へ来たときも、彼は入口で膝を折り、頭をぶつけないよう背を丸めていた。三メートル近い身体に対して、声だけが妙に小さい。

「床でいい。毛布も半分で足りる」

宿主ティルナは、奥の一号室の鍵を渡した。

「うちの商品は、膝を曲げなくていい一泊です」

扉は普通の大きさだった。モーガが眉をひそめてくぐると、その先で天井が持ち上がった。壁紙の葉模様が枝を伸ばし、寝台が音もなく長くなる。窓まで彼の目の高さへ上がった。

魔法で客を小さくする宿は多い。だがこの部屋は、客に合わせて自分が大きくなった。

モーガは恐る恐る背筋を伸ばした。

頭が、何にも当たらない。

さらに両腕を横へ広げる。肘も壁に触れない。寝台へ仰向けになると、踵まで柔らかな布の上に載った。

「壊れないか」

「あなたが眠る程度では」

「寝返りは」

「好きなだけ」

洗面台には彼の手に合う桶が用意され、掛け金も指一本でつまめる太さになった。小さな道具へ自分を合わせなくていい。それだけで、モーガは何度も部屋を見回した。部屋は彼を珍しい客ではなく、測るべき一人として扱っていた。

夜、二階の梁がゆっくり軋んだ。苦しむ音ではなく、大樹が風を受け流す音だった。モーガは一度右へ、次に左へ寝返りを打ち、最後には手足を投げ出した。幼いころ母の洞窟で眠って以来の姿だった。

朝、彼は扉の前でまっすぐ立っていた。昨日まで曲がっていた腰が伸び、目線がティルナの頭上を越えている。

「宿で、朝に背が高くなったのは初めてだ」

料金は大銀貨一枚。モーガは掌ほどの金板を置き、爪で二本の線を引いた。

「二泊分。次の満月にも来る」

外へ出るとき、彼はまた扉に合わせて身を屈めた。だが今度は恥じるためではなく、宿へ礼をするためだった。

巨大な足音が遠ざかる。縮んだ一号室の鍵を戻した瞬間、入口のベルが小さく、それでも確かに鳴った。