当たり棒は返さない
引退試合の帰り、先輩と二人でアイスを買った。
サッカー部は一回戦で負けた。先輩は最後の十分だけ出場し、シュートを一本外した。
「泣かないんですね」
私が言うと、先輩は棒アイスの袋を破いた。
「マネージャーが先に泣いたから、順番待ち」
私は試合終了の笛と同時に泣いた。今は目が腫れ、冷たいものを当てたほうがよさそうだった。
コンビニ前の縁石に座り、無言で食べた。
先輩が先に食べ終え、木の棒を見て固まった。
「当たり」
赤い文字があった。
「最後の日に運を使いましたね」
「試合で使いたかった」
「一本じゃ勝てません」
「厳しいな」
先輩は当たり棒を私へ差し出した。
「交換してきて」
「自分で行けば」
「制服で泣いた顔してアイス二本目は恥ずかしい」
「私も同じです」
「後輩だから平気」
仕方なく店へ戻り、新しい一本をもらった。
外へ出ると、先輩がいなかった。
驚いて周囲を見回すと、少し離れた歩道橋の上にいた。
追いつくと、先輩は夕暮れのグラウンドを見ていた。学校の照明が一つずつ消えていく。
「来年、勝てますかね」
「知らない」
「無責任」
「俺がいないから、好きに勝てる」
先輩は笑ったが、声が震えていた。
私は交換したアイスを渡した。
「半分食べます」
「一本丸ごとだぞ」
「当たり棒を店に渡したのは私です」
「じゃあ全部やる」
「それは違う」
袋の上から無理に割ると、アイスは不格好に砕けた。大きいほうを先輩へ渡す。
「来年、見に来てください」
「受験」
「試合より大事ですか」
「大事」
「じゃあ合格してから来てください」
先輩は一口食べ、ようやく泣いた。
私は見ないふりをした。
卒業式の日、先輩から小さな封筒を渡された。
中には、あの当たり棒が入っていた。
「店に渡したはず」
「写真撮って、同じ種類の棒に書いた」
「偽物じゃないですか」
「お守り」
裏には、『来年は勝て』と書かれていた。
私たちは翌年、県大会へ進んだ。
試合会場の観客席に先輩はいなかった。大学の入学式と重なったからだ。
勝利の写真を送ると、すぐ返事が来た。
『当たり棒、返せ』
私は『返しません』と送り、木の棒をスコアブックへ挟み直した。