影を断つ刃

処刑台に朝日が差すと、死刑囚の影は首枷より先に地面へ縫いつけられた。

影斬り役のウルネは、細身の黒刃を抜く。肉を傷つけず影だけを断てば、人は世界から忘れられる。家族も友も記録も、その者を最初から存在しなかったものとして整い直す。それが「血を流さない処刑」だった。

今日の囚人は、城の地下牢から子供を逃がした産婆サディル。救われた子供の中には、領主が魔物へ捧げるはずだった七人がいた。

「影を切れば、あの子たちも私を忘れるのかい」

「忘れる」

「なら、泣かずに育てるね」

サディルは笑った。広場の端で七人の子供が兵に囲まれている。処刑が終われば地下へ戻される。誰が逃がしたかを忘れれば、逃げ道の場所も忘れるからだ。

ウルネは刃を影へ置いた。

影斬りには裏返しの使い方がある。囚人ではなく処刑人自身の影を断てば、刃が次に触れた鎖や命令も世界から忘れられる。ただし術者の存在も同時にほどけ始め、日没までに誰の目にも映らなくなる。

師匠は決して使うなと言った。忘れられるのは死より深い、と。

「子供たちを連れて西門へ走れ」

ウルネは自分の影を踏み、刃を突き立てた。

冷たさが足裏から頭まで駆け抜ける。次にサディルの鎖を切ると、兵たちは何を守っていたのか分からない顔で槍を下ろした。処刑命令書の文字が白紙になり、地下牢の鍵から「閉じる」という役目が消える。城中で扉が開く音がした。

サディルは七人を連れ、群衆へ紛れた。ウルネも処刑台を降りたが、誰も道を空けない。肩が人をすり抜け始めていた。

西門でサディルが一度だけ振り返った。目が合ったように思えた。

「ありがとう」

だが礼は、風にでも向けたものだったのだろう。彼女の視線はウルネの身体を通り過ぎていた。

日が沈む頃、七人の子供は城外の丘に着いた。人数を数えたサディルは、なぜか八人目のためのパンを一つ余分に割った。

その隣には、影も名もない男が座っていた。彼自身さえ、もう自分が誰を救ったのか思い出せなかった。