招待状の欠席欄

凪紗は、自分の結婚式の招待状に、欠席の丸をつけるような気分だった。

正確には、式ではなく、海外展示会への出展招待状だった。個人で作っているアクセサリーが選ばれ、現地ブースを一週間使える。開催日は、晃生との入籍予定日の翌日。渡航すれば、役所の手続きも、二人で予約した小さな祝宴も取りやめになる。

メールには〈出席・欠席〉の二つのボタンが並んでいた。机の反対側には、役所でもらった婚姻届。晃生の署名だけが先に入っている。

「行ってきたら」と晃生は言った。

「簡単に言わないで」

「簡単じゃないから、言ってる」

会話はそこで終わった。晃生は凪紗の代わりに、延期を決めてはくれなかった。

展示会の会場図には、凪紗の小さな区画が番号で示されていた。婚姻届には、二人の住所を書く枠が並んでいる。番号で呼ばれる一週間と、同じ住所で呼ばれる日々。比べる単位が違いすぎた。

二十代の終わりが近づくほど、凪紗は一度逃した機会は二度と来ないと思うようになった。展示会も、入籍の勢いも。どちらかを逃せば、そのまま人生の列車に乗り遅れるような気がした。

けれど婚姻届の日付は、二人で決め直せる。展示会の招待は、今回の作品に届いたものだ。そう考えた瞬間、仕事を優先する自分を正当化しているだけではないかという声も聞こえた。

凪紗は婚姻届を持ち上げた。晃生の署名の横にある空欄は、責めるようには見えなかった。ただ、まだ書かれていない。

「出展する」

凪紗が言うと、晃生はうなずいた。

「入籍は、戻ってから相談したい」

「そのとき、僕が同じ気持ちじゃない可能性もあるよ」

凪紗は息をのみ、それでも「うん」と答えた。待つことを当然にしない言葉だった。

パソコンへ戻り、〈出席〉を押す。自動返信が届くまでの数秒、婚姻届を二つ折りにした。破らず、額にも入れず、引き出しへしまう。

招待メールには、渡航準備の一覧が表示された。凪紗は一番上の〈航空券を手配する〉にチェックを入れた。