新郎側の幽霊席

結婚式の集合写真に、知らない老婦人が一人写っていた。

新婦の母・深水梓路は、写真を拡大した。

「新郎側の親族でしょう」

新郎の父は首を振る。

「そちらのおばあ様では」

「母は十年前に亡くなっています」

「では、なおさらそちら側です」

「幽霊にも新郎側と新婦側があるんですか」

両家は式場へ集まり、老婦人の正体を押しつけ合った。

新郎の姉が言う。

「白い着物だから新婦側」

新婦の叔父が反論する。

「座っている位置は新郎側」

写真家は困る。

「中央寄りなので、どちらとも」

「中立の幽霊?」

「媒酌人かもしれない」

「死後に仲人を?」

老婦人は一枚目では新郎の後ろ、二枚目では新婦の隣、三枚目では最前列にいた。

梓路が青ざめる。

「近づいてる」

新郎の父も声を落とす。

「最終的に家へ来るのでは」

「どちらの家へ?」

「できればそちらへ」

「今、はっきりなすりつけましたね」

司会者、式場支配人、神主まで呼ばれた。

神主が写真を見る。

「悪い気は感じません」

支配人が胸をなで下ろす。

「では式場の責任ではない」

神主は続ける。

「ただ、何かを訴えているような」

支配人がまた青ざめる。

「式場の設備についてですか」

写真家が言う。

「カメラへ視線を向けています」

「写真部門の責任へ移さないでください」

新郎新婦だけは黙っていた。

梓路が二人へ尋ねる。

「心当たりは?」

新婦が小声で言う。

「実は、披露宴の途中で話しかけられた」

全員が息をのむ。

「何て?」

「“そこ、私の席なんだけど”って」

新郎が続ける。

「僕たち、認知症の親族かと思ってスタッフへ任せた」

支配人が名簿を調べ、控室へ走った。

しばらくして、写真の老婦人本人が元気に現れた。

隣の会場で行われていた米寿祝いの主役だった。トイレから戻る際に会場を間違え、写真撮影の列へ三回入り込んだという。

老婦人は笑った。

「みんな並んでるから、祝い事なら一緒でいいかと思って」

老婦人は記念にもう一枚だけ撮り、新郎新婦より中央へ座った。

幽霊席は、新郎側でも新婦側でもなく、隣の宴会側だった。