新郎側の関係者席
結婚披露宴の受付で、席札をなくした三人が同じ丸テーブルへ案内された。
一人は新郎の上司で刑事の小夜嵐鉄平。
一人は新婦の叔父でマフィア幹部の鳴滝アルベルト。
もう一人は、ご祝儀袋を盗むため紛れ込んだ杠葉つぐみだった。
テーブル札には、ただ《関係者》とある。
鉄平はアルベルトの顔を手配資料で見た気がした。アルベルトは鉄平の硬い姿勢を警察関係者と見抜いた。つぐみは二人を会場警備だと思った。
「ずいぶん包んだんでしょうね」
つぐみがご祝儀袋を見ながら探りを入れた。
「組として恥ずかしくない額だ」とアルベルト。
「組?」と鉄平。
「親族のまとまりだ」
「なるほど。こちらも課でまとめた」
「課?」
「職場のまとまりです」
つぐみは、両側とも集団で金を運び込んでいると判断した。
「回収は、いつ?」
「式のあとだ」とアルベルト。
「現場保存が終わってから」と鉄平。
「現場保存?」
「写真を撮るだろう」
「記念撮影のことね」
三人の会話は、妙にかみ合っていた。
司会が「まもなく指輪の交換です」と告げる。
アルベルトが低く言う。
「指輪は代々うちが管理している。高価な品だ」
つぐみの目が光った。
「警備は?」
「身内が固めている」
「私も見張ります」と鉄平。
「頼もしい。だが裏切れば分かっているな」
「公務員へ脅迫ですか」
「公務員?」
アルベルトの眉が動く。
つぐみは椅子を引き、逃げ道を確かめた。
「お二人、もしかして私を監視してます?」
「なぜ監視される心当たりがある」と鉄平。
「席を間違えただけです」
「席札がないのに?」
「自由席かと」
「披露宴に自由席はない」
アルベルトがつぐみの袖口からのぞく大量の空袋を見つけた。
「それは何だ」
「ハンカチです」
「全部、水引がついているが」
「祝い事が好きで」
鉄平が静かに手錠を取り出す。
「詳しく聞きましょう」
アルベルトも立ち上がる。
「その前に、お前が本当に警察か確認したい」
空気が凍った瞬間、司会が両家紹介を始めた。
「こちらが新婦の叔父、鳴滝アルベルト様。こちらが新郎の上司、小夜嵐鉄平警部。そして――」
司会はつぐみの名簿を探した。
「そちらは、どちら様でしょう」
つぐみは空のご祝儀袋を抱えたまま笑った。
「本日の余興です」
鉄平が手錠を鳴らした。
「終演後はこちらへ」