新郎友人、ひとり
式が始まる十分前、八田悠生は受付脇の席次表を二度見した。
自分の名前が〈新郎友人〉の卓にある。八重樫理緒とは三年前まで付き合っていたが、新郎とは今日が初対面のはずだった。
印刷会社に勤める悠生のもとへ、昨夜、確認用データが誤送信された。そこでも同じ分類だった。理緒が過去を隠し、自分を新郎側の知人として処理したのだと思い、訂正させるために早く来た。
「新婦友人の間違いです」
受付係へ言ったとき、背後から新郎が声をかけた。
「間違いではありません。僕がそうしました」
男は悠生を控室前の廊下へ連れていった。挙式まで七分。
「理緒から全部聞いています。あなたと付き合っていたことも、別れたあと連絡を絶ったことも」
「なら、なおさら新婦側でしょう」
「僕が友人になりたかったんです」
新郎はスマートフォンに保存した一枚の画像を見せた。悠生が三年前、理緒へ送った長いメッセージだった。父親を亡くし、何も食べられなくなった彼女へ、朝までかけて書いた文章。
悠生の画面では、ずっと未読のままだった。だから彼は、理緒が自分を拒絶したのだと思い、その一か月後に別れを告げた。
「当時、彼女の端末は壊れていました。通知だけをスクリーンショットして、修理前にクラウドへ上げたそうです。本文を開くと消えそうで、未読のまま何百回も読んだって」
理緒がドレス姿で現れた。
「返事をしたら、もっと頼ってしまうと思った。あなたは転職したばかりで、もう限界だったから」
「未読なら、届いてないと思うだろ」
「うん。そこまで考えられなかった」
新郎が言った。
「彼女が立ち直れたのは、あなたの言葉があったからです。だから僕にとっても、恩人です」
悠生は、隠されたのではなかった。理緒が今の夫へ過去を渡し、その夫が受け取ったうえで席を用意していた。
呼び出しがかかる。悠生は席次表の訂正シールを剥がし、受付へ返した。
芳名帳では、新郎側の欄を開いた。そこにフルネームを書き、理緒ではなく新郎から渡された席札を胸に差した。