星屑坑道に鍵を掛けて
ジェドの家には、武器より鍵が多い。
軍の掘削兵だった頃、閉じる権限を持たなかった反動だ。敵陣の下へ坑道を延ばせと言われれば掘り、崩落警報が鳴っても「あと十歩」と命じられた。紺の軍服は肩章だけ立派で、背中は土と血で色が変わっている。除隊から半年たった今も、軍用通信板には未読の緊急招集が十二件残っていた。
彼は辺境の落星谷を買い、入口に三重の鍵を掛けた。
一つ目は商人除け、二つ目は軍使除け、三つ目は、昔の自分が命令を理由に外へ出ないためだ。鍵を回すたび、除隊証より確かな自由が手の中に残った。
谷底では、夜ごと星屑が石になって降る。自走式の小さなつるはしが明け方までに欠片を集め、磁力籠で純度を分け、商会の飛行便へ積む。ジェドは朝に門を開ける必要すらない。採掘権の印が、すべてを勝手に通す。
昼過ぎ、腰の受領札が一度だけ震えた。
《星鉄粉、定期納品完了。次月分の生活費を確保》
兵站部なら一晩で使い切る程度の額だった。だがジェドには、固いパンと静かな屋根と薪があればいい。その三つを自分の時間を差し出さず買えるなら、十分すぎた。
軍用通信板が黒く光る。
『旧都地下に敵性反応。第六掘削隊へ復帰せよ』
元中隊長カッセルの声だった。命令形は昔と一字も変わらない。
「民間人ジェド、復帰を拒否する」
『これは命令だ』
「私の除隊証には、命令を受ける義務がないと書いてあります」
『国を守る気はないのか』
ジェドは谷を見下ろした。自走つるはしが一列に戻り、収納庫の扉が閉まるところだった。
「国は兵士を守りませんでした。少なくとも、あなたは守らなかった」
通信板の軍籍印を小刀で削る。黒い光が途切れ、ただの石板になった。ジェドはそれを武器箱ではなく、玄関の踏み石にした。
最後の鍵で門を閉じる。外からは誰も入れないし、彼も出なくていい。
夜空に最初の星が浮かんだ。
ジェドは毛布を屋根へ運び、何かが落ちてくるのを待つのではなく、ただ星を見るために横になった。