春霜に落ちた白い花
村から聖女エルネを追い出した翌朝、梨園の花がすべて地面へ落ちた。
空は晴れていた。昨夜の冷え込みも、例年より少し強い程度だった。村長モードンは花弁を拾い、「今年は運が悪い」と吐き捨てた。
だが隣の林では野草が凍っていない。梨の枝だけが白く焼け、蕾の芯まで茶色になっていた。春祭り用に雇った農師が、枝を折って首を振る。
「霜は昨夜一度ではない。夜明け前に三度降りています。この園だけへ集まる地形だ」
村人たちはそこで、毎年同じ時期にエルネが畑の端で夜を明かしていたことを思い出した。彼女は霜を消していたのではない。梨園へ落ちる冷気を、収穫の終わった休耕地へ少しずつ移していたのだ。
「花も咲かせられない聖女」と呼ばれたのは、花が一度も落ちなかったからだった。
村は実りを先に担保へ入れ、祭りの準備をしていた。花がなければ実もない。買付商は契約を破棄し、酒屋は前金の返還を求めた。モードンが別の神官に霜除けを頼むと、梨園全体を覆う結界費用は村の三年分の税に達した。
村人は夜が明けてから藁を燃やし、枝へ湯をかけた。凍った蕾は急な熱で割れ、残っていた花まで落ちる。花粉を運ぶ蜂も煙を嫌って去った。取り戻そうとするほど被害が増え、モードンはようやく、エルネが毎晩一人で失敗を防いでいた重さを知った。
山を一つ越えた寒村では、同じ朝、杏の花が枝に残っていた。
エルネは村人パルカと一緒に休耕地へ立ち、草の上の霜を指で確かめる。
「畑を全部温める必要はありません。冷気が降りる道を一本変えればいいんです」
「それなら薪も魔石もいらない。来年は若い者にも教えてくれ」
新しい村は、彼女のために祠ではなく、小さな観測小屋を建てると決めた。空と土を見られる窓が四方にある小屋だった。
昼すぎ、モードンから使者が来た。
「村へ戻れば、今年の梨の半分をやる。今夜から祈れ」
エルネは落ちなかった杏の花を一輪、使者へ渡した。
「梨園守護の奉仕契約は、村外追放の決議をもって終了しています」