昼食と一緒に届く
感染症病棟の隔離室へ、誰も入らない二十分の間に小包が届いた。患者はベッドから動けず、扉の電子錠は閉じたまま。監視窓にも人影は映っていない。箱の中には、院内告発者が紛失した録音機が入っていた。
出入りを許されるのは看護師の安西、看護助手の室井、管理栄養士の榊田だけだった。安西は薬品庫、室井は別室の清拭、榊田は厨房へ戻る途中だったという。三人とも、録音に自分の声が入っている可能性があった。小包が見つかったのは配膳終了の五分後だった。患者は読書に集中しており、誰の姿も見ていない。
医師の榛沢が残した手掛かりは三つだった。箱の底に乾いたコーンスープの黄色い染みがある。側面には、平行に走る二本の黒い車輪油が付いている。そして昼食カートの重量記録は、隔離室へ向かった時だけ九百グラム重く、戻った時には通常値へ戻っていた。
安西は「配膳口は皿しか通らない」と言った。室井はカートが扉の外までしか来ないことを強調した。榊田は重量差を、スープを多く積んだからだと説明した。しかし隔離室の食事は毎日、栄養計算のため一グラム単位で記録される。その日の献立重量に増減はなかった。さらに彼女は、回転棚は故障中だと主張した。榛沢が押すと、棚は低い音を立てて滑らかに半回転した。
隔離室の扉には、人が通る扉とは別に、陰圧を崩さず食器を入れる回転式の受け渡し棚がある。カートを横づけし、棚を回せば、廊下から室内へ手を入れずに物を送れる。箱はカートの下段に隠され、スープ皿の下で染みと油を拾ったのだ。
「榊田さんは小包を昼食カートへ載せ、通常の配膳に見せて隔離室まで運んだ。回転棚に箱を置き、患者側へ回したから、電子錠も監視窓も反応しません。重量差は箱そのもの、底のスープは隠し場所、二本の油線はカートの枠に挟まれた証拠です。人が入れない部屋でも、食事は毎日入る。その例外を配達路に変えたのは、重量を管理するあなたでした。九百グラムという数字は、録音機と箱を合わせた実測値とも一致します。消毒手順を破らずに証拠だけを患者へ返せる者は、献立とカートの両方を扱うあなたしかいません」