暴露予告のスクリーンショット
風祭志乃のファンアカウント「午後の残響」に、元友人からメッセージが届いた。
〈これ、志乃でしょ。明日までに謝らないなら会社の人に送る〉
添付された画像には、ロックバンドNoon Echoのライブ会場で撮った志乃の手元と、会社の歓迎会で撮られた写真が並べられていた。同じ傷、同じ指輪。言い逃れはできない。
元友人とは、半年前に貸した金を返してもらえず距離を置いた。謝る理由はなかった。それでも、職場で「午後の残響」と呼ばれる光景を想像すると胃が縮んだ。ライブの感想には、仕事で言えない弱音も書いている。
志乃はアカウントを消す前に、同じ部署の小田切係長へスクリーンショットを見せた。声が震え、趣味の説明から始めようとした彼女を、係長が止めた。
「問題はそこじゃない。これは脅しです」
人事と情報管理へ連絡し、外部からメールが来ても開かないよう部署へ注意を出す。ただし理由は「個人を狙った迷惑行為」とし、アカウント名は伏せる。係長は一つずつ志乃の希望を確認した。
注意が回ったあとも、同僚は理由を聞かなかった。隣席の社員は、志乃が通知音に肩を震わせるたび、電話を代わるとだけ言った。誰もアカウントを探さず、昼休みの話題も普段どおりだった。秘密を守るとは、大げさに囲うことではなく、尋ねない選択を積み重ねることなのだと志乃は知った。
翌朝、元友人から〈送ったから〉と来た。だが会社の窓口には何も届かなかった。送信画面を装った偽物だった。
志乃は謝らなかった。アカウントも消さず、位置情報と過去の写真だけを整理した。最後に、固定投稿を書き換える。
〈ここにいる私も現実です。ただし、現実の住所を渡すつもりはありません〉
昼休み、係長が自販機の前で言った。
「好きなものは守る対象です。弱みじゃない」
志乃は缶コーヒーの蓋を開けた。通知はまだ怖い。それでも午後の残響という名前は、脅す相手の手から、自分の手へ戻っていた。
もう、震える指で名前を手放す必要はなかった。