曇った真実鏡

「全員が嘘つきに映る」

地方判事オルフェンは、布をかけた手鏡を修理台へ置いた。

真実鏡は、偽りを口にした者の顔を曇らせる裁判道具だ。ところが昨日から、証人も被告も判事自身も真っ白に曇る。審理は中断し、明日までに直らなければ、無実を訴える農夫が牢へ戻される。問題の裁判では、領主の倉から穀物を盗んだかどうかを鏡一枚で決める。農夫が「盗んでいない」と叫んでも顔が曇り、告発した役人が同じ言葉を繰り返しても曇ったため、法廷は怒号で閉廷した。オルフェンは判事章を外し、今日は権威ではなく一人の客として頭を下げた。

店主ユーディは鏡面を磨かず、枠の裏を指でなぞった。紫色の粉がつく。

「法廷で新しい香を焚きました?」

王都から贈られた安息香を使い始めたという。香に含まれる夜菫は、鏡の銀を眠らせる。眠った真実鏡は言葉の意味を読めず、すべてを危険な発言として曇らせるのだ。

ユーディは銀板を外し、温めた塩水へ一度だけ沈めた。夜菫を洗い流し、枠の内側へ透明な雲母を張る。香を禁じれば済む話だが、法廷には緊張で倒れる者もいる。道具のほうを現場に合わせるのが修理だ。

組み直した鏡を、オルフェンへ向ける。

「私は一人で来た」

鏡は澄んだまま。彼は扉の外に護衛を待たせているらしい。

「私は少しも焦っていない」

たちまち鼻先だけが白く曇った。曇りは嘘の大きさに合わせて広がり、数秒後には自分で晴れた。これなら法廷で長い沈黙を待つ必要もない。

判事は目を見開き、次いで腹の底から笑った。

「正しい。実に腹立たしいほど正しい」

ユーディは鏡の縁に小さな印を刻んだ。紫に変われば洗浄時期だとわかる。

オルフェンは規定の修理代を置き、その上へ裁判所の金印付き硬貨を重ねた。

「農夫の審理が終わったら、法廷の秤も見てほしい。最近、貴族側へだけ傾く」

「まずは持ち込んでください」

判事が鏡を胸に急ぎ去る。扉が閉まり、曇り一つない鏡面が店内を映した。

そこへ新しい客の影が映り、ベルが鳴った。