最初に鳴ったベル

笹舟玻璃は、壁の非常ベルへ椅子を投げつけた。

赤い覆いが割れ、甲高い警報が部屋を満たす。まだ開始まで四十二秒。津雲計、段田冴、浦浜礫の三人は、中央の円から一歩も動いていなかった。

《ベルが鳴った瞬間、最も多くの参加者がいる区画だけを安全区画とする》

床には東西南北の四区画と、中央の《待機区画0》が描かれている。全員、開始ベルの後で四方へ分かれ、多数区画を作るゲームだと思っていた。

天井の声が怒鳴った。

《競技開始前の破壊行為を確認。笹舟玻璃を失格――》

しかし別の、感情のない合成音がそれを遮った。

《ベル音を検出。人数を集計します》

玻璃は割れた覆いの下で耳を塞いだ。三人はまだ中央。走り出そうとした津雲を、床から伸びた仕切りが止める。ゲームは始まっていないのに、判定だけが始まった。

東、零。

西、零。

南、零。

北、零。

待機区画0、四名。

《安全区画、待機区画0》

四人の首輪が同時に青へ変わった。

「そんな馬鹿な!」段田が叫ぶ。「これは非常ベルだ。ゲームのベルじゃない」

「規則には『開始ベル』とも『主催者が鳴らすベル』ともない」

玻璃は椅子から外れた金属脚を捨てた。

入室時、彼女だけが天井を見ていた。開始用スピーカーの横に、火災報知器と非常ベルがある。主催者は防火設備を外せなかった。閉鎖空間で人を焼く装置ほど、消防基準の監査を恐れる。

天井の声が低くなる。

《安全区画の確定は、開始後に行う意図だった》

「意図は規則じゃない。しかも中央にも『区画』と印刷してある。待たせる場所まで数える設計にしたのは、避難経路の管理が必要だったからでしょう」

出口のロックが外れた。四方の区画に用意された処刑灯は、一度も点かなかった。

津雲は呆然と玻璃を見る。「四人で相談する時間すら使わずに終わらせたのか」

「相談を始めた瞬間、私たちは東西南北のどれかを選ぶ前提に閉じ込められる」

玻璃は鳴り続けるベルの下を通り、扉へ向かった。

「一ラウンド目の勝ち方は、開始を待たないことだった」