最終号の一面

地方紙の記者、生駒嘉月に届いた未来通知には、廃刊号の紙面が添付されていた。

発行日は八か月後。一面の見出しは〈市有地売却に不正〉。署名は嘉月だった。

新聞社は大口スポンサーである建設会社に依存していた。その会社と市長の関係を疑う噂はあったが、裏づけはない。嘉月は未来の見出しを手掛かりに、古い議事録と登記を洗った。

一か月で証拠はそろった。嘉月は閉庁間際の資料室へ通い、廃棄寸前の入札記録を一枚ずつ撮影した。元職員は喫茶店の隅で、署名を迫られた夜のことを話した。市有地は相場の三分の一で売られ、その直前、市長の親族へ金が流れていた。取材相手は皆、『名前は出さないで』と言った。未来の紙面には嘉月の名だけが大きく残っていたが、その一行の裏に、名を出せない人たちの恐怖が積み重なっていた。

編集長は原稿を読んで、机へ伏せた。

「出せば会社が終わる」

「出さなくても、八か月後には終わります」

「未来通知が原因で終わるのかもしれない」

その言葉は正しかった。記事を載せなければ、廃刊を避けられる可能性がある。嘉月には住宅ローンも、大学へ進む弟もいた。正義は給料を払わない。

一週間、彼女は原稿を引き出しへ入れた。取材先からの電話にも出なかった。だが商店街で、新聞を脇に抱えた老店主に呼び止められた。

「小さい町ほど、書かれないことが多い。だから金を払ってる」

嘉月は原稿を戻した。

記事が出ると、建設会社は広告を引き上げた。市長は辞任したが、新聞社も通知どおり八か月後に廃刊した。送別会で編集長は、正しかったとも間違っていたとも言わなかった。

嘉月は大手紙の採用試験に落ち、半年間、スーパーで働いた。その後、町の人から月五百円ずつ集め、四ページだけの週刊紙を始めた。華やかな一面はない。壊れた街灯、保育園の献立、議会の欠席者を載せた。

創刊から三年目、未来通知が来た。

〈購読者数、千人を超えました〉

嘉月はその通知を記事にしなかった。未来の数字より、今週も五百円を払った人の住所を一軒ずつ確かめた。

最終号の一面は、彼女から会社を奪った。代わりに、誰のために書くのかを初めて与えた。