月曜定休の理髪店
月曜日が消える町では、床屋は日曜の閉店後に刃物を伏せて帰る。火曜の朝、鋏が開いていれば、月曜に誰かの髪を切った印だ。料金は鏡の裏へ挟まれ、切った髪は燃やしてはいけない。
蓼丸柊吾は、父から店を継いで三年になる。
毎週火曜、二番椅子の周りに白髪が落ちていた。父が死ぬ前に使っていた席だ。料金は五百円玉一枚。昔の散髪代と同じだった。
「月曜の客を詮索するな」
隣のパン屋も、商店会長もそう言った。誰も不思議には思わない。柊吾も掃き集めた髪を紙袋へ入れ、倉庫に積んだ。袋には日付を書かない。月曜に日付はないからだ。
ある火曜、鏡の裏に金がなかった。代わりに、父の字で「短くしすぎるな」と紙片が挟まっていた。柊吾が子供のころ、父に何度も言った文句だった。
その週から白髪は少しずつ黒くなった。次は半分、次はほとんど黒。床に落ちる毛の長さも短くなり、父が若返っているようだった。紙袋を古い順に並べると、毛は柊吾が生まれた年ごろまで戻っていた。いちばん新しい袋には、父が若い日に使っていた柑橘系の整髪料の匂いまで染みついていた。
柊吾は結婚を控えていた。婚約者の葉澄は、式には父の写真を置こうと言った。柊吾は頷いたが、写真の父より若い髪が毎週落ちることを話せなかった。
式の前の日曜、柊吾は閉店後も店に残った。月曜が消える瞬間に居合わせてはいけない。それが唯一、父から厳しく教えられた規則だった。
午前零時が近づく。二番椅子がゆっくり回った。鏡には柊吾だけが映り、椅子には誰もいない。それでも革張りの座面が沈み、白いクロスが人の肩の形に膨らんだ。
柊吾は鋏を持った。
「式、来るか」
返事はない。クロスの上に、一本だけ黒い髪が落ちた。
柊吾は鋏を伏せ、店を出た。父に会わないことを選んだのか、規則に従っただけなのか、自分でも分からなかった。
火曜の朝、二番椅子の周りには髪がなかった。鏡の裏には五百円玉が二枚あり、一枚は昭和の古いもの、もう一枚は今年のものだった。
鋏の持ち手には、父の白髪と柊吾の黒髪が一本ずつ、固い結び目で巻きついていた。