未亡人の縄

カティナの夫が死んだとき、残ったのは崩れた家と、庭の古井戸だけだった。

井戸は十年前から枯れたとされ、村人は丘の上の領主井戸まで水を買いに行く。桶一杯の代金を払えない家には、木札の借金が増えた。

「その穴を掘り直せば、水が出るかもしれない」

旅の井戸師はそう言った。

だが村長は鼻を鳴らした。

「未亡人の土地から出た水なら、未亡人のものだ。今度はお前に金を払うのか」

カティナは、夫の形見の帳面を広場へ持ち出した。

最初の頁に自分で規則を書く。

飲み水は無料。

修繕費は一世帯につき月銅貨一枚。ただし払えない月は空欄でよい。

支出はこの帳面に記し、井戸脇へ鎖で置く。

庭を通る権利も、水を汲む権利も、土地の売買とは別に村へ残す。

「自分の庭なのに、何も得ないのか」

村長が問う。

「毎朝、丘を登らなくていい。それで十分です」

掘削には長い縄が必要だった。

カティナは新しい縄を買う金を持っていない。すると、領主井戸の借金札を最も多く抱えた洗濯女が、麻の束を一つ置いた。

次の日には漁師が古網をほどき、子どもたちが繊維を撚った。村長まで、倉から眠っていた滑車を運んで来た。

誰が何尋出したかは帳面に書いた。多く出した者も、出せなかった者も、汲める量は同じ。名前の横に優劣の印はつけなかった。

カティナは最後に、喪服の腰紐をほどいた。

黒い布を細く裂き、皆の麻縄へ巻き込む。

「それまで使うのか」と洗濯女が止めたが、カティナは笑った。

「しまっておくより、誰かを支える方がいい」

七日かけて泥をさらい、崩れた横穴を抜いた。

縄を引く手に、突然、重みが増す。

上がってきた桶は縁まで満ち、黒い布の巻かれた縄から冷たい雫が落ちた。

最初の一杯を勧められたカティナは首を振り、借金札を抱えた洗濯女の壺へ注いだ。

女は礼を言う代わりに、腰から木札の束を外す。もう丘の井戸へ持っていく必要はない。

翌朝、カティナの庭門は取り払われていた。

代わりに、皆で編んだ太い縄が井戸へ伸びている。

引けば水が上がる。

誰が引いても、同じ冷たさで。