枯れ井戸の向こうの畑
雨を失った赤土郷から、種袋だけを抱えた農民が逃れてきた。
受け入れ先の青葉村には休耕地がある。だが用水は、古くからの三十戸でぎりぎりだった。
「畑を与えても、水を奪い合うだけだ」
水番は門を閉ざした。
村を任されたフィオナは、枯れ井戸の向こうに広がる段々畑へ皆を連れていった。
「ここを使います。ただし水は早い者勝ちにしません」
彼女が示したのは、目盛りを刻んだ水槽と回転板だった。
一畝につき一刻。乳幼児のいる家は菜園一畝分を追加。夜間の余水は共同畑へ。収穫は、種と各家六週間分の食料を残した後、十二分の一だけ水路維持に納める。使用時刻も納めた量も、毎朝板へ記す。
回転板の針は、水を受けるたび一目盛り動く。水番の家だけが夜中に多く流したという昔の噂も、これなら針の位置で分かる。鍵はフィオナではなく、古参と避難民の選挙で選ぶ二人が持つことになった。
「新参者だけ税を軽くするのか」
古参の農夫が問う。
「いいえ。休耕地を借りる古参にも同じ規則です。水を使わない者からは取りません」
赤土郷の農民は、割り当てを受けてもすぐ種を蒔かなかった。
「上の水路が詰まっている。このまま流せば、下まで届かない」
彼らは鍬を手にした。
青葉村の水番はしばらく腕を組んでいたが、やがて自分の牛を出した。
「泥を運ぶなら、こいつが早い」
誰も徴用されていない。参加日数は税の代わりにもならない。参加できない老人の区画も、同じ時刻だけ水を受けられる。ただ、自分たちが使う水路だから皆が来た。
三日後、水路掃除の謝礼は村の積立から日当として支払われた。回転板の最初の札は赤土郷の家に当たった。
フィオナが水門を上げる。細い流れは古い境界石の手前で一度淀み、それから石を越え、乾いた新畑へ走った。
避難民の少女が歓声を上げる。
青葉村の子が、その水へ木の葉の舟を浮かべた。
二枚の葉は同じ溝を並んで下り、枯れ井戸のそばに立てられた新しい水番表には、出身地ではなく畝番号だけが並んでいた。