棚卸しの鉛筆

ホームセンター「金槌堂」は、銀行へ出す在庫表を一晩で作り直すことになった。帳簿の数字と棚の商品が合わず、このままでは追加融資の面談にすら進めない。

真田丈晴は椎名と、閉店後の売場を端から数えた。軍手百四十七双、南京錠六十二個、養生テープ九十一巻。椎名が数え、真田が短い鉛筆で紙へ正の字を書く。

「俺のシフトを減らせって言ったの、椎名さんですよね」

脚立の上で椎名の背中が止まった。

「人件費を落とせと言われた」

「だから一番新しい俺を」

「一番、次へ行けそうだった」

慰めに聞こえて、真田は鉛筆の芯を折った。次へ行けるなら、とっくに行っている。大学を辞めてから、面接で説明できる年月はこの店にしかなかった。

二人は文具売場から削り器を借りた。商品なので、使用分として三百八十円を伝票へ書いた。店が潰れかけていても、一本の鉛筆まで誤魔化さない椎名が腹立たしかった。

深夜一時、配管部品の棚で差が見つかった。箱だけ並び、中身がない。客が部品だけ抜いたのではなく、見本を箱へ戻し忘れていた。二人で全棚の見本を外し、品番ごとに詰め直した。埃まみれの手が何度も同じ箱へ伸び、最後には声をかけなくても左右へ分かれた。

午前三時、帳簿との差は二万三千円まで縮まった。融資が通る数字ではないかもしれない。椎名は事務所の電気ポットで湯を沸かし、カップ麺を二つ作った。真田のほうには、勝手に卵を落とした。

「減ったシフト、来月戻る保証はない」

「分かってます」

「面接には行け」

「それも分かってます」

食べ終えると、椎名はレジ下の私物引き出しを空にした。古いチラシと乾いたマーカーを捨て、仕切りを真ん中へ動かす。片側へ真田の折れた鉛筆を置いた。

朝、真田は履歴書の入った鞄を持って店を出た。雨が降り始めていた。傘は自宅にある。彼は一度シャッターまで戻り、自分の引き出しへ置いたままだった作業用の雨具を取り出そうとした。

鍵を差し込んだとき、店内から椎名が解錠した。真田は雨具だけを取るつもりで入り、結局、入口に積まれた園芸土の数をもう一度数え始めた。