橋の上で止まった王国
ミアゼルが王国輸送局を追放されて最初に起きた失敗は、食料不足ではなかった。
食料も薬も馬車も、十分にあった。
ただし全てが、一本の橋の上で動けなくなった。
大雨で東地区へ避難命令が出ると、輸送大臣バルカドは「重要な物から先に運べ」と命じた。王宮用の小麦車、負傷兵の荷車、騎兵、家畜、避難民の馬車が同時に石橋へ殺到する。
幅広の穀物車と対向してきた軍馬車がすれ違えず、後退しようとした車輪が欄干へ噛んだ。後ろから押された羊が暴れ、一頭が川へ落ちる。橋は壊れていないのに、王国の東西は完全に切れた。
「道が一本しかないのが悪い!」
大臣は叫んだ。しかし昨日まで、同じ橋を一日に三百台が渡っていた。
ミアゼルは荷の価値ではなく、車幅、旋回半径、降ろす順番で列を組んでいた。空車を西へ戻す時間まで決め、一方通行を鐘で切り替えていた。誰も待たなかったから、誰も彼女の表を必要だと思わなかった。
橋の中央で薬車が傾き、熱病用の瓶が一箱割れた。避難民は水位が上がる川岸で立ち尽くし、王宮用小麦を守る兵と、負傷者を先に通せと叫ぶ衛生兵が剣へ手を掛ける。物資は豊富なのに、優先順位を決める者がいないため、全てが同じ場所で価値を失っていった。
大臣はミアゼルの古い列表を探させたが、そこに「重要な順」という欄はなかった。代わりに「止まった時、後ろへ戻れる順」と書かれていた。彼女は平時の速さではなく、失敗してもほどける列を作っていた。
その頃ミアゼルは、隣領の洪水避難所で鐘を鳴らしていた。
「一度目は徒歩、二度目は細い荷車、三度目に大型車です。戻り便には空の担架を載せてください」
指示どおりに動くと、老人も食料も日暮れ前に高台へ移った。最後の戻り便は、途中で足を折った牛まで運んできた。
領主シュオナは、泥まみれの彼女へ輸送参謀の腕章を渡した。
「物があるだけでは届かない。君は道の容量を増やしたのね」
夕刻、王国の騎士が橋を迂回して到着した。大臣名義の命令書には、混乱を収めれば追放を撤回し、主任へ復帰させるとある。
領主シュオナはすぐに隣国救援隊の派遣を決めた。ミアゼルも橋の混乱を解く手順書を渡し、新しい雇い主からの正式な救援命令なら現地へ向かうと答えた。だが、それは復職ではない。
ミアゼルは腕章を直し、命令書を折り返した。
「王国輸送局との雇用契約は、昨日付で終了しています」