正午を過ぎた荷札

 婚礼船の出航式で、禁制薬の月根草が一箱見つかった。

 ニケフォル王弟は、待っていたようにキュレリア・ダスティエを指す。

「花嫁の荷に隠されていた。聖域から薬草を密輸する女とは結婚できない。婚約を破棄する」

 月根草は一片でも牢獄送りになる。港の客たちは、異国育ちのキュレリアなら裏の交易路を知っている、と囁いた。

 婚礼船には彼女の衣装、故郷の楽器、母から譲られた茶器まで積まれていた。ニケフォルは『異国の物は検査が必要だ』と言い、朝から彼女を船室へ入れなかった。箱の一つ一つに花嫁方の白い荷札を結んだのは、誤解を避けるためだった。

 ところが月根草の箱だけ、白い紐に新しい結び目がある。キュレリアはそれを指摘しなかった。紐は疑いにすぎず、彼は疑いを理由に自分を断罪している。ならば彼女は、誰にも曲げられない条項だけで答えるつもりだった。

 彼女は箱へ近づかず、船上時計を見上げた。

「その荷札は、何時に契約へ登録されましたか」

「荷は荷だ。時刻など関係ない」

「第九条にはございます」

 港湾監督公オスミアスが、航海婚約契約の原本を開いた。そこには一つだけ、荷役を分ける条項がある。

 第九条――正午までに登録された荷は花嫁方、正午以後に加えられた荷は花婿方の責任とし、登録者の名を契約欄へ刻む。

 月根草の荷札を条文へ重ねると、文字が浮いた。

『第三鐘。登録者、ニケフォル』

 正午から三時間後だった。

 花嫁方の登録欄は、正午きっかりに閉じたままだ。

「船員が私の名を勝手に使った!」

「この条項は、あなたの魔力でしか名を刻めません。密輸より先に、わたくしを罪人にする箱を積んだのですね」

 ニケフォルは声を潜め、婚約を戻せば告発もなかったことにできる、と手を伸ばした。

 キュレリアはその手の届かない場所へ指輪を置いた。

「航路はやり直せても、同じ船には乗りません」

 元婚約者へ背を向ける。オスミアスが下船橋の先で手を差し出した。キュレリアは陸を選び、その手を取った。