母のいないグループ
叶絵は、母の退院日を決めるため、弟と妹だけのグループ通話を開いた。名前は「木曜の迎え」。家族グループではない。
母を入れたまま相談すると、話はいつも「誰が一番母を大事にしているか」の競争になった。母は家族グループで、叶絵を「しっかり者」、弟を「忙しい人」、妹を「まだ子ども」と呼び分ける。結果、迎えも薬の管理も叶絵に寄ってきた。
「僕は午前なら車を出せる」
「私は金曜なら部屋を片づけられる」
「私は木曜の夕方だけ」
三人で予定を並べると、誰も薄情ではなかった。ただ、できる時間が違った。
そこへ母から電話が来る。
「退院のこと、私を外して話してるでしょう」
「時間の分担だけ決めてる」
「勝手に決めないで」
「勝手に決めないために、これから希望を聞くよ。でも、誰が休むかは私たちが決める」
母は黙った。叶絵は病室のベッド脇に置かれた、昔の家族写真を思い出す。母の手は幼い叶絵の肩に乗り、写真の外へ逃げないよう押さえているように見えた。
「木曜と金曜、どっちに帰りたい?」
「木曜」
「じゃあ弟が迎え。私は夕方に寄る。妹は金曜に片づける」
「あなたが迎えじゃないの?」
「うん」
母の息が細くなる。責める言葉を待ったが、聞こえたのは「車に青いクッションを積んで」とだけだった。
通話を切り、叶絵は「木曜の迎え」に決定事項を書いた。それから家族グループへ、母も読める形で三行だけ送る。
叶絵 退院は木曜十時
叶絵 迎えは弟
叶絵 希望の青いクッションを忘れない
母はすぐに既読をつけた。しばらくして、親指を立てるスタンプが一つ届く。
叶絵は母を秘密から締め出したのではない。母の不安と、三人の都合を同じ箱に押し込まないため、箱を分けたのだ。弟は青いクッションの写真を送り、妹は玄関に置く椅子の寸法を尋ねた。叶絵はそれぞれに答え、誰の仕事も取り上げなかった。
「木曜の迎え」は退院後に削除する。家族グループは残す。ただし、しっかり者という役名だけは、そこへ戻さなかった。