治療から六十秒
鳥居坂レンカのHPを、PK《白医》の光が全快させた。
《保護治療》
他プレイヤーを回復した者は、六十秒間その対象へ攻撃できません。
残り保護時間:59秒。
「助かったね」
白医は柔らかく笑う。彼は戦場で負傷者を治し、六十秒後に背後から殺すことで有名だった。回復を受けた側は恩を感じ、警戒を解く。
レンカは知らないふりをした。
二人で廃病院を進む。白医の視線は、保護時間の数字ばかり追っている。
残り十秒。
「出口はあの扉だ」と彼が言う。
扉の前には毒霧。レンカが入ればHPが減る。白医は反射的に治療するか、殺す好機を待つか選ばなければならない。
レンカは毒へ片足を入れ、咳き込んだ。
残り三秒。
「お願い、もう一度」
白医の手が上がりかけ、止まる。
「回復薬を使え」
「持ってない」
一。
白医は治療しなかった。保護表示が消える。
彼の短剣が抜かれる。
レンカは毒霧の中へさらに一歩入った。HPは残り一。白医が今刺せば殺せる。
「治療者を疑うなんて、ひどい患者だ」
「治す人なら、今の私を見捨てない」
廊下の奥で、救助された初心者たちが映像記録を見ていた。レンカは最初から彼らへ白医の選択を公開していた。
白医は短剣を下ろせない。治療すれば保護が再開し、殺せない。刺せば全員の前で正体が確定する。
彼は刺した。
刃はレンカへ届く前に青い壁へ弾かれる。保護時間はゼロだったが、システムは直前の治療拒否と攻撃入力を一連の行動として再審査した。
《保護治療者・白医による対象死亡待機を検出》
《攻撃を無効化》
初心者たちの記録画面には、白医が治療を止めた瞬間から秒単位で残っていた。五、四、三。彼の視線がレンカではなく保護タイマーへ向いていることまで映っている。
白医は「治療には資源が必要だった」と弁明する。だが魔力欄は満タンだった。
レンカは毒霧から這い出し、自分で解毒薬を飲む。最初から持っていた。ただし白医に見せれば、彼は攻撃を諦めていただろう。
「患者を囮にしたのか」
「治療者を選ばせた」
彼は六十秒を善意の証明ではなく、殺害までの待ち時間に変えた。だからレンカは、助けられる状況でも助けない一秒を皆へ見せる必要があった。
《治療者資格を剥奪――六十秒守った者ではなく、六十秒が切れるのを待った者をPKとして登録します》