海の向こうの次の日曜日
「次に会える日なんて、決めなくていいよ」
二十歳で留学する羽鳥志温を空港へ送った日、汐見依都はそう言った。約束を作れば、守れなかったときに傷つく。幼なじみなら、何年空いても幼なじみのままだと思った。
実際、志温はその後、海外のホテルで働き始めた。誕生日には短いメッセージが届き、地震のニュースがあれば安否を尋ねる。けれど会う予定は一度も作らないまま七年が過ぎた。
祖父の法事で帰国した志温と、依都は海辺の町で再会した。昔よく座った防波堤。彼は日に焼け、知らない言葉をいくつも話せるようになっていたが、缶のレモンソーダを開ける前に必ず二度振る癖だけは変わらない。
「いつまでいるの?」
「明日の夜まで」
「じゃあ、またしばらく会えないね」
軽く言ったつもりだった。志温は海を見たまま「そうだな」と答えた。
夕暮れが近づき、依都は先に立った。送ってもらえば、空港の日と同じ別れになる気がした。
その手首を、志温がつかむ。
差し出されたスマホには、三か月分の予定が並んでいた。隔週日曜の夜、《依都と夕食》。現地の時刻では昼。さらに二か月後、日本行きの航空券と、その三か月後に依都の街へ来る乗り継ぎ便まで予約されている。
「勝手に決めたの?」
「嫌なら消す。でも、決めないまま七年は長すぎた」
志温は手を離そうとした。依都は手首を返し、今度は自分から指を絡めた。海風で冷えた彼の掌が、驚くほどすぐ温かくなる。
「ビデオ通話で夕食って、何を食べるの」
「同じレシピを作る。最初は依都の好きなグラタン」
「焦がしたら?」
「次の日曜にやり直す」
依都は予定をすべて承諾し、最初の一件の名前を《依都と志温の夕食》へ変えた。明日の空港までの見送りも追加する。
「志温。明日は私が送る」
「また泣かないふりする?」
「しない。次の日曜が決まってるから」
幼なじみなら、次に会う日を決めなくても消えない。
けれどその夜、二人は消えないだけの関係をやめた。海の向こうまで続く予定と、離さない手を、会いたい相手として選び直した。