消えた一秒
生駒澄怜は、映像を一フレームずつ送った。
路地裏で室伏廉司巡査が少年を射殺した夜の胸部カメラ映像。少年が刃物を振り上げ、室伏が発砲する。県警は正当防衛と結論づけ、残るのはデジタル鑑定書への署名だけだった。
「止める場所が違う」
新堂雅継参事官が背後から言った。
「刃物が見えるところで静止画を切り出せ」
「その前が一秒ありません」
「カメラの自動分割だ」
澄怜は証拠品のSDカードを机に置いた。映像は二十三時十一分五十八秒から五十九秒へ進み、次が十二分一秒になる。欠けた一秒に、少年の右手が腰から肩の高さまで移動していた。編集の継ぎ目は見えない。しかしファイルの作成履歴には、事件翌朝の変換処理が残っている。
「原本カードではありません」
「同型機から複製した保全用だ。内容は同じだ」
「製造番号が違います。押収票の末尾は四二、これは七九です」
新堂は机の縁を指でなぞった。
「室伏は発砲後、現場で倒れた。カード回収が遅れたせいで破損した。復元班が最善を尽くした。それだけだ」
「復元なら、元ファイルのハッシュ値が残ります」
「残らなかった」
澄怜は別の画面を開いた。交番の充電台は、装着されたカメラから自動で低解像度の確認映像を保存する。正式な証拠ではないため、誰も消去対象にしていなかった。そこには欠けた一秒が残っていた。
少年は刃物を振り上げていない。室伏に背を向け、右手のスマートフォンをポケットへ戻そうとしていた。発砲後、画面外から誰かが折り畳みナイフを路面へ滑らせる影まで映っている。
新堂が再生停止キーを押した。
「その映像は保全手続を経ていない。出せば証拠にならないうえ、室伏の家族と本部を焼くだけだ」
「だから消したんですか」
「言葉を選べ。君の席も選べなくなる」
澄怜は欠けた一秒を見つめた。映像を守る部署が映像を替えれば、カメラは市民ではなく組織のための目になる。
彼女は二枚のカードの製造番号、変換履歴、自動保存映像の原本位置を鑑定書へ記載した。新堂がネットワークケーブルへ手を伸ばす前に、外部監察用の保全領域へ三つのファイルを登録する。
進捗表示が百パーセントになった瞬間、澄怜は鑑定書へ署名した。