濾過槽の銀色

海洋研究館の夜間点検中、毒性生物を収めた薬品庫の鍵が湿式実験室から消えた。渚鳥主任は鍵を計量台へ置き、三人の職員に在庫不足を問いただしていた。水槽の警報が鳴り、全員が大型水槽へ向いた十秒ほどの間に鍵がなくなった。扉は閉鎖中で、排水口には細かな網がある。

容疑者は飼育員の鰐淵、獣医の真栄田、設備係の越水。薬品の横流しを疑われていた三人は、鍵を奪う理由がある。身体検査でも室内捜索でも見つからず、越水は「水槽へ投げても底に沈み、すぐ見える」と言い切った。

大型水槽には銀色の魚と白い砂があり、鍵を直接投げ込めばすぐ発見される。鰐淵は底網を上げ、真栄田は排水溝へ試薬を流したが反応はなかった。越水は設備図を広げながら、配管は複雑で探しても無駄だと急かした。私はその「複雑さ」を増やさず、計量台から最短の一本だけを追った。

残った手掛かりは三つだけだった。第一に、警報記録には鍵が消えた時刻、濾過圧が八秒だけ急上昇したとある。第二に、計量台のすぐ上を通る給餌管は、水槽底ではなく背面の濾過籠へ直結し、鍵輪が通る太さだった。第三に、越水の右手袋には、管へ流す沈降餌の緑色の粉と新しい擦過痕が付いていた。

鰐淵が給餌管へ水を流すと、背面で金属音がした。濾過籠は外から見えず、翌朝の清掃まで開けない場所だ。餌を一緒に入れれば、鍵の落下音も警報音に紛れる。

私は濾過籠を引き出した。「越水さんは皆が水槽を見た隙に、鍵を沈降餌とともに給餌管へ落とした。圧力の上昇は異物が管を通った時間、管径は鍵が運ばれる道、手袋の粉と傷は投入した手を示す。水槽へ投げたというあなたの発言は、わざと底だけを探させるためでした。鍵は水の中を沈んだのではなく、流れに乗って見えない濾過槽へ移ったのです」警報そのものは濾過装置が異物を検知して鳴らしたもので、越水さんにとっては隠蔽音まで自動で用意されたことになります。底を探せという言葉も、流れの終点を知られる前に調査を水槽内へ限定する誘導でした。