獣を呼んだ干し肉

朝、狩猟団の野営地は魔狼に囲まれていた。

 最初の一頭が鼻を鳴らし、次の十頭が森から現れる。団長ガルムは大剣を抜いた。

「見張りは何をしていた!」

「風下には一匹もいませんでした!」

 問題は見張りではなく、荷袋だった。

 昨夜追放された荷物持ちタリアの代わりに、新入りが干し肉と魔獣誘引香を同じ背負い籠へ詰めた。瓶の栓は閉まっている。だが香油は革へ染み、食料の匂いと混ざって、森中の獣に「弱った獲物がここにいる」と告げていた。

「誘引香を捨てろ!」

 籠を谷へ投げると、魔狼の半数はそちらへ向かった。残りは干し肉を背負った団員を追った。

 ガルムはそのときようやく、タリアが荷を三種類の皮で包んでいた理由を理解した。食料は鹿革、薬は白布、香料は蝋引きの黒革。彼女は「混ぜるな」と毎回言った。それを神経質な小言だと笑っていたのは自分たちだ。

 団の最初の狩りは、獲物を追うどころか、荷を捨てながら逃げるだけで終わった。

 同じころタリアは、薬草採取隊と霧の谷を歩いていた。

「眠り花は黒箱へ。朝露草は籐籠へ。昼食は私の外套の下です」

 薬師オーネが不思議そうに問う。

「全部、別々にする必要が?」

「眠り花の花粉がパンにつけば、食べた人が崖際で眠ります。朝露草に獣脂の匂いが移れば、薬効が半分になります」

 帰還後、採取した花は一輪も傷まず、食料にも匂いは移っていなかった。オーネは報酬を上乗せし、黒革の腕章を差し出す。

「採取品保存官。あなたの区分けは、薬草一本の価値だけでなく、隊員の命も守る」

 夕方、傷だらけの狩人が薬舗へ駆け込んだ。ガルムからの手紙を握っている。

『戻れ。魔狼を追い払ったら、次は火竜狩りだ。香料の管理だけ任せる』

「だけ、ですか」

 タリアは黒箱の蓋を閉じた。ぱちりという音に、使者が肩を震わせる。

「団長は謝礼も出すと。前と同じ席を空けている」

 タリアは黒い腕章を結び、封書を返した。

「追放を告げられた夜に、狩猟団との荷役契約は終了しています」